研究課題/領域番号 |
17KK0031
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
堀内 俊郎 東洋大学, 東洋学研究所, 客員研究員 (60600187)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2021
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キーワード | 『楞伽経』 / サンスクリット写本 / 決定義経注 / 般若心経 / 阿毘達磨集論 |
研究実績の概要 |
ドイツ、ハンブルク大学を拠点にして、Harunaga Isaascon教授との国際的な共同研究により、写本研究の最新の成果を取り入れつつ、『楞伽経』を中心とした仏典のサンスクリット写本研究の新たな国際的ネットワークを構築するという本研究は、今年度は当地での対面での研究会などが基本的に行われなくなったことに伴い多少の遅れを余儀なくされたが、着実に成果を上げることができた。 5月には同大学での研究発表会(Colloquium)にて英語での発表を行った。サンスクリットの知識やサンスクリット写本の厳密な読解に基づいた漢訳やチベット語訳仏典の読み直しを提起するものであり、『般若心経』注釈文献と『仏母般若波羅蜜多円集要義釈論』を主に扱った。7月には日本印度学仏教学会にて『決定義経注(ArthavinizcayasUtranibandhana)』という文献について、従来存在しなかったと思われる数フォリオの「発見」の報告、写本の系統の解明、および写本に基づく重要な数か所の読み直しを報告した。10月には東洋大学東洋学研究所にて『般若心経』注釈文献について、3月にはバウッダコーシャ研究会にて『阿毘達磨集論(Abhidharmasamuccaya)』の注釈文献について報告を行った(すべてオンライン)。また、ハンブルク大学で開催した複数回の研究会の成果を反映した論文もとりまとめた。 いずれも本研究の目的にのっとり、写本の読解に基づく新たな文献研究の可能性を提起するものである。これらの成果は3本の英語論文と1本の日本語論文として今年度中に刊行することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は昨年末からの継続で年度初めから10月末まで当該国に滞在し、共同研究を遂行できた。年度中に関連研究として4回の研究発表、4本の論文の刊行をすることができたのでその点では順調な進展といえる。内容的にも写本の読みなおしに基づき既刊の校訂本を訂正しそれに基づく新たな読解や思想研究を行うという着実ものであったので、広く共有されうる知見を公表できたと思う。たとえば、『決定義経注』に対しては、校訂本(Samtani 1971)、和訳、英訳、諸研究が存する。校訂本に対してはいくつかの訂正案が提示されてきたが、写本に基づくさらなる読み直しが期待されている。今回筆者は従来の校訂本では使用されていなかった1本を含め、4本の写本を閲覧することができた。諸写本を見直すことによって、従来Samtani氏によって存在しないとされていたG写本の数フォリオが、実際は見いだされることが分かった。また、写本の読み直し、関連文献との対照、チベット語訳としてのみ残る注釈書の参照などの作業によって、従来の校訂本に対して大幅な改訂を加えうることも分かった。 また、海外で新たに2人の研究者が写本に基づく『楞伽経』研究に興味を示し筆者とコンタクトをとってきた。その点で写本の読み直し、写本自体の研究のネットワークも徐々に、着実に構築できてきているともいえる。 しかし、今年度いっぱいは対面での研究会の実施が困難となり、また、セメスター期間中に週1回のペースで行われているITLR(インド・チベット語彙集成プロジェクト)と編集会議にも参加する予定だったがこの状況下でそれが行われなかったため、その点は果しえなかった。さらには欧米の他大学との交流もすることができなかった。以上のことから、本研究課題の進捗状況は基本的におおむね順調であるがやや遅れ気味であろう。
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今後の研究の推進方策 |
このように本研究は着実な成果を上げたが、課題も残る。ハンブルク大学は幸いにも研究所は開いていたので定期的に通うことができ、そこにいる研究者との情報交換などもできた。共同研究者とも複数回対面で共同研究をすることができた。しかし基本的に研究会などはすべてオンラインであり日本での対面での学会発表の機会もなかった。また、欧米内での移動すら困難であったため、当初計画していた欧米の他の大学を訪問して写本研究の新たな国際的ネットワークを構築することがほとんどできなかった。オンラインでもある程度の共同研究は可能であろうが人文系においてはやはり対面での研究交流のほうが速度や密度において各段に有効であるので速やかに状況が改善されることが望まれる。 今現在2021度中の再度のドイツへの渡航を目指しているが不透明な状況である。そこで、次年度はオンラインでの研究会の開催なども視野に入れている。いずれにせよ、こちらとしては地道にサンスクリット写本を読解してゆき、オンラインなどで適宜情報交換を行い、広く成果を発表し、さらなる国際的な写本研究のネットワークを構築していくこととしたい。
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