最終年度は、短期間ではあったが、コロナ禍でかなわなかった再度の国際共同研究者との対面での共同研究をドイツにて行うことができた。それにより、『楞伽経』を起点としてサンスクリット写本に関する国際的ネットワークを構築しようと試みた本国際共同研究の総まとめとしてふさわしい成果を得ることができた。本研究では仏教文献の文献学的研究を主に行ってきた。最終年度は、ヴィマラミトラによる『般若心経』の注釈書を主に扱い、同書に見られる中観と唯識の論争を明らかにしてヴィマラミトラが中観論者であることを初めて指摘した2本の英語論文の出版を行った。従来はチベット語の読みの不正確さにより当該箇所におけるヴィマラミトラの意図は明らかにされていなかったのだが、同論文で初めてそれを明らかにしたのである。さらには1本の日本語論文の出版、1回の国際学会での発表を成しえた。 研究期間全体としては、2度、国際共同研究者のもとに訪問して共同研究を行い、その間1度の国際研究集会の共催を果たした。コロナ禍以降はオンラインでもその研究ネットワークの構築を行うことができたので、所期の目的は果たすことができたと確信している。文献としては、『決定義経注』、『楞伽経』、ヴィマラミトラなどによる『般若心経』注、仏・法・僧の三宝隨念経に対する注釈書など、様々な文献を扱った。それらに対して、サンスクリット写本の再確認や、チベット語テクストの厳密な読解による文献の読み直しにより、多くの新しい成果を得ることができた。
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