シチュアシオニストのメンバーでもあった、オランダ人の芸術家コンスタントによるニューバビロン(1956-74)――住民たちの「遊び」によって形作られる集団的作品であり、たえず「変容」し続ける永続的なプロセスを内包した「もうひとつの生活のためのもうひとつの都市」――について、絵画、彫刻/コンストラクション、建築などのディシプリンごとに分断されることなく、それらの境界を「越境」するアプローチである「トランスディシプリナリティ」に由来する「トランス・メディア」という概念をもとに論じた。 基盤Cの研究課題「アンリ・ルフェーヴルとシチュアシオニストを軸とした建築の無名性に関する研究」(課題番号17K02327)と上記の内容を合わせてまとめ上げ、東京大学に提出した博士論文「コンスタント――トランス・メディアとしてのニューバビロン」(学位取得は2024年4月)では、コンスタントとも交流のあったルフェーヴルの都市・空間論を嚆矢とする「空間論的転回」における社会-空間論を補助線とし、美術史や建築史のみならず、社会学や地理学などの知見を包含した視点から、その多面性と射程を通史的かつ多角的に明らかにした。 「トランス・メディア」としてのニューバビロンは、絵画というディシプリンが共通の基盤をなし、彫刻/コンストラクション、建築、地図制作など、さまざまなディシプリン間を「移行」し、その不断の「変容」のなかで、模型、ドローイング、地図など、それぞれのメディアでは表現し尽くせなかった残余を、もうひとつのメディアへと「翻訳」する。このような「トランス・メディア」としてのニューバビロンを、5つのTransの接頭辞を持つ「翻訳」「変容」「移行」「侵犯」「伝達」が互いに連関しながら作用するプロジェクトとして結論づけた。
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