本研究のテーマは、20世紀の中葉から後半にかけて世界各地でイギリス帝国が行った植民地文書の大規模な隠蔽工作である。当初はごく一部の地域で行われた局地的な文書隠蔽工作が、なぜ帝国全土に拡大したのか。その過程で重要な役割を担ったのではないかと疑われる本国イギリスの植民地省に焦点を当てて、検討を進めている。 3年間の研究計画の2年目にあたる本年は、一次史料と二次史料の整理と検討を進め、さらに海外共同研究者をはじめイギリスやマルタの研究者らと密に連携して、来るべきイギリスでの長期海外調査に向けた準備を進めた(本年度末に渡航を開始する予定であったが、新型コロナウィルスの影響により延期)。こうした作業を通じて、本国イギリスの植民地省がイギリス帝国の文書工作に果たした役割を解明することがいかに重要であるかが再確認された。というのも、40近い植民地のうち、確認した限りほぼ全てにおいて、文書隠蔽工作が実施される前後に植民地省と連絡が取られているのである。植民地省からの指令に基づいて文書隠蔽が行われたのか。あるいは、ことはそれほど上意下達ではなく、むしろ植民地省は前例や蓄積されたノウハウを各植民地に情報伝達をするというハブ的な役割を演じていたのか。はたまた、世界各地で行われた文書隠蔽工作は、各植民地がその都度主導したものであり、本国の植民地省はそれを追認していたに過ぎないのか。こうした疑問を解明するためには、引き続き本格的に一次史料を検討する必要がある。 さらに本年は、上の実証的な作業を通じて得られた研究成果を、国内外に向けて出版物と学会報告を通じて発信した。
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