第二次世界大戦後、イギリス帝国は世界各地で都合の悪い植民地文書を隠蔽する文書隠蔽工作を行った。この文書隠蔽工作の全容を解明することが申請者の長期的な目標である。そのための一段階として、本研究計画では、本国イギリスで帝国の植民地政策を担った植民地省の役割に光を当てている。 当初の予定では、今年度は本研究計画の最終年度にあたり、また長期海外調査のほとんどを今年度に実施する計画であった。しかし新型コロナウィルスの影響が日本でも調査対象国でも拡大したために当初の日程で日本を出国することが出来なかった。その後も年度内の実施に向けて再調整を続けたが、結局事態は本質的に好転することがなかった。こうした事情があり残念ながら長期海外調査をはじめとして当初予定していた作業の多くは今年度は実施することが叶わなかった。マルタで開催することを計画していたシンポジウムも日程再調整を余儀なくされた。以上の背景により、今回は研究期間の延長を申請することとなった。 他方で、こうした状況下でもこれまでに収集した資料を検討することが出来たことは一定の成果であった。本研究計画にとってもっとも重要な作業となるのは、イギリス国立公文書館に所蔵されている移管文書群(FCO 141)を検討することである。今年度はイギリスで長期海外調査を行うことは叶わなかったが、これまでに収集した移管文書群の一部を検討することは出来た。特に、イギリスにとって重要な植民地であったマルタにかかわる状況について整理出来たことは前進である。
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