本研究計画は、イギリス帝国が20世紀中葉から後半にかけて実行した文書隠蔽工作に光を当てている。特に、本国イギリスの植民地省に注目し、文書隠蔽工作が世界各地に拡大する過程において植民地省が果たした役割を検討している。 最終年度にあたる本年は、まず本研究計画において最も重要な史料である移送文書群(FCO 141)の調査をさらに進め、また旧植民地などに残された史料とも照合を行い、さらに将来的な研究発信に向けた準備を進めることを目指した。 結果として、これらの目標は概ね達成することが出来た。新型コロナウィルス後の様々な変化のために、当初目指していた期間の海外滞在は叶わなかったが、海外と日本における調査を実施し、また調査の仕方や関係者との連携の仕方を工夫することで、こうした制約を乗り越えることができた。 まず移送文書群の検討を作業を通じて、まず本国植民地省が果たした役割については、相当の分析結果を得ることが出来た。特に、マラヤなど東南アジアの植民地に文書隠蔽工作が拡大した際に本国植民地省の役割が変容したことが明らかになった。他方で、この過程の機微をめぐる解釈については、ロンドン大学の一部の研究者など、研究者によって見解が異なる点があるということも浮かび上がってきた。今後はこうした研究者らとの研究交流に一層力を入れたい。 加えて、旧植民地等における照合調査の結果、当初予想していた以上に重要な史料が残されている場合があることも分かった。特に今回成果があがったのは委任統治期のパレスチナ関係の史料である。こうした史料の解釈についても、現在、専門の研究者と意見交換を進めている。 さらに、将来的な研究発信に向けて、イギリスを中心に世界各地の研究者と連携しながら、国際会議の開催に向けた準備を進めることも出来た。
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