研究課題/領域番号 |
17KK0039
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村上 裕一 北海道大学, 法学研究科, 准教授 (50647039)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | 多層的規制モデル / 規制機関 / 独立規制機関 / 公益性 / 調整理論 / ワシントン条約 / 政府間関係 / マルチレベル・ガバナンス |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、フランスのボルドー政治学院で在外研究をしている。共同研究者の協力を得ながら、今年度は、(1) マルチレベル・ガバナンス(MLG)の理論的整理・動向把握、(2) 空間的・時間的「調整」に基づく戦略的条約実施の分析、(3) 仏欧行政の調査の3観点から研究に取り組んだ。 (1) 条約実施にその国際的・国内的条件からアプローチする静態的な分析枠組みに対し、条約実施の動態的な分析枠組みとして、MLGを位置付けた。それはまず、縦・垂直方向(各地域・国・地方といった各レベルの政府・行政組織間関係)の研究と横・水平方向(政府等と民間アクター・市民・独立機関等とのネットワーク関係)の研究とに分類できる。最近では、縦の観点から、超国家のみならず地方の重要性が増しているほか、横の観点から、欧州で進む自由化の中で官民関係を規律する独立機関がフランス国内で多様化し存在感を増しているという研究動向を捉え、研究課題を整理した(この成果は『北大法学論集』で発表)。 (2) MLGは、①既存諸制度を効率化しながら統合する、②政策実施段階で目標と実態との「調整」を図る、③大目標を示しつつ、具体的な実施手法は加盟各国や現場の裁量に委ねる、という条約実施の「戦略」と捉えることも可能である。本研究では、国際法学の「調整理論」も参照しながら、ワシントン条約実施システムが空間的、時間的な「調整」を通して不断に変化(ある意味では複雑化)しているということを、事例研究により描写した(この成果は環境法政策学会、及び、『北大法学論集』で発表)。 (3) 上記の点に加え、①欧州イノベーション理事会(EIC)を中心とした欧州科学技術・イノベーション政策の設計理念、②「フード・バリュー・チェーン」へと多角的に進出するフランス農協の市場適応戦略、③地方公共事業に対するフランス行政裁判所の態度などについて、情報収集をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、「規制機関の多層性と規制の公益性」を基課題としつつ、①日本・フランス・EUの事例調査、②規制の政策決定・執行過程研究の連結、③日本・フランス・EUの規制監督機関の比較研究を行い、政治的・技術的正当性の観点でその機能条件を抽出した上で、④公益に資する「多層的規制モデル」を構築することを目的としている。 今年度は、国際共同研究や海外調査により、また日本の事例とも往復しながら「多層的規制」、もしくはMLGの調査・比較研究を行うとともに、「規制機関が多層的であれば公益が実現されるか」という因果推論的視点により研究の成果を整理することを計画していたところ、結果として、(1) MLGの理論的整理・動向把握、(2) 空間的・時間的「調整」に基づく戦略的条約実施の分析、(3) フランス・EU行政の調査の3つに取り組むこととなった。 成果公表件数こそ少なくなってしまったものの、上記の通り、フランスと欧州の様々な事例の調査・分析に当たって共同研究者と行った意見交換には、昨年度以上に大きな意義があったと言える。前年度に十分に取り組めなかった実態調査にも、分析枠組みに関する先行研究のレビュー結果に基づいて、相当程度取り組むことができた。以上を総合し、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で残された諸課題に取り組みながら、次年度も引き続き、日本・フランス・EUの事例調査とそれらの比較研究を行う。それと併行して、本研究の「国際・国内に多層的に存在する社会的・経済的規制機関の活動が「公益」実現に繋がる条件を明らかにする」という当初の目標に立ち戻り、本研究の取りまとめとして、「規制機関が多層的であれば公益が実現されるか」という因果推論的視点により研究の成果を整理するとともに、規制の公益性もしくは改善に資する「多層的規制モデル」を構築する。そのために、まずは断片的に進められてきた個別の事例研究を、本研究プロジェクトの大きな枠組みの中に位置付けていく必要がある。国際共同研究として取り組んできたことを踏まえた成果報告も行い、他の研究者との議論を通して、「人や組織にどのようなdiscretion(裁量)(と権限)をどう配分すれば、民主的・公益的に望ましい政策を決定・実施できるか」を整理する。
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