本研究のタイトルにある「多層的規制」の理論的背景としてあるマルチレベル・ガバナンス(MLG)は、官・民の様々なアクターやルールがある組織・権限構造をなす空間において、人や組織、ルールの間にいかなる水平的・垂直的調整があるかに注目する。本研究では、ボルドー政治学院での国際共同研究により、日・仏・欧の行政の比較を通して、MLGの理論と現状を調査研究し、民主的で公益的な多層的規制モデルを構築することを目的としていた。本研究で注目したのは、①国際機関や国際条約、②独立規制機関や規制監督機関、③規制等政策の決定と実施の間の関係性とreconciliationやcollaborationのメカニズムである。本研究の結果、①分権化(あるいはより一般的に、政策現場への権限移譲)は、自治体など政策現場の果たすべき役割と権限と責任が当事者に実感されるということに繋がるが、その分権化に起因する様々な弊害は、国や広域自治体、独立規制機関などの関与によってかなり克服されるということ、②政策の決定(ルールメイキング)と実施(エンフォースメント)の間では、既存の諸制度を効率化・統合したり、決定事項と実行可能性の「帳尻合わせ」をしたり、実施手法に関する裁量を状況をよく知る現場に委譲したりする、時間的・空間的広がりの中での「調整」が行われるということ、③科技行政やCOVID-19対応の国際比較を踏まえると、平時・有事の違いこそあれ、民主的「統制」は専門家等に「委任」する範囲との対比で捉え直す必要があるということ、他方で、民主的統制が多元的に及ぶことによって公益性が高まり得るということ、が明らかになった。本研究全体で明らかになったのは、これまでの欧州統合の歴史上、概念的に捉えられがちだったMLGは、一定の条件の下で、民主性や公益性、より良い行政や政策を実現するための「戦略」としても機能し得るということである。
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