研究課題/領域番号 |
17KK0040
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宇田 忠司 北海道大学, 経済学研究院, 准教授 (80431378)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | コワーキング / コワーキングスペース / コラボレーション / コミュニティ / 経験 / 認知 / 実践 / コンテクスト |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,コミュニティ型ワークスペースにおけるコラボレーションの生成・展開を国際的に比較・検討することである。研究期間の2年目である令和元年度は,渡航先機関の研究者等との議論を適宜援用しながら,主として利用者の観点から,定性的手法を用いて国内と海外の当該スペースにおけるコラボレーションの実態とメカニズムを解明することが目指された。 今年度の主要な成果として,「Experiencing collaborative spaces: Evidence from social media 」が挙げられる。本研究報告の目的は,Twitter上の質的データを用いて,日本の利用者がコワーキングスペースをどのように経験しているのか,を明らかにすることである。より具体的には,コワーキングに関する400超のツイートをもとに,自らの経験や他者とのやり取りを通して当該スペースをどのように認知また評価し,どのような仕事実践を行っているかについて質的分析がなされた。その結果,スペースの利用や環境,スペース内での「単独」の活動に関する経験の言及が支配的であるのに対し,交流のようなスペース内での複数名から成る活動に関する経験の言及が非常に乏しいことが示唆された。くわえて,SNS上でのユーザー間のコミュニケーションを通して,当該スペースの意味づけや捉え方,そこでの実践のあり方(コワーキングスペースは,どのような場でどのような属性の個人や組織が何を期待してどのように利用しているのか,あるいは利用できるのか,など)がダイナミックに生成あるいは変容している様相が確認された。 当該スペースに関する(とくに欧米以外のデータにもとづく)経験的知見は依然として不足しているため,上記の成果は一定の理論的・実践的意義を有すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記区分の理由は,交付申請書に記した主な研究計画をほぼ遂行できたからである。具体的には,パリを中心に先駆的あるいは際立った特徴のあるコミュニティ型ワークスペースを訪ね,観察調査や運営者と利用者への予備的聞き取り調査を実施した。並行して渡航先機関の研究者等との議論にもとづき,研究枠組の精緻化を図った。さらに,質的研究で用いる聞き取り項目等の検討を重ね,当該調査設計を洗練させたうえで,訪問施設から研究目的に適う対象を選定し,海外事例研究に取りかかった。なお,上述の通り,本課題の目的(コミュニティ型ワークスペースにおけるコラボレーションの生成・展開の国際比較)に関する経験的研究の成果の一端は,国際的な学会やシンポジウム等にて報告された。 以上から,本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルス感染症の影響により,2020年3月半ばから渡航先で外出禁止を余儀なくされている。禁止令が解除され,通常の社会生活が成り立たない限り,本研究実施計画に沿うことはきわめて困難である。とくに,計画書で言及していたフランス内外での質的調査にもとづく事例研究の遂行や,質的研究の知見を援用した量的調査の設計・実施の見通しは立っていない。 したがって,当面は研究計画を変更し,現況に即した活動を行う。具体的には,当該スペースに関する理論研究と二次データの収集およびそれにもとづく研究に取り組むこととする。なお,状況の変化に応じて,本研究目的を可能な限り達成できるよう適宜計画を見直す。 制限下での活動を推進するための方策として,渡航先であるパリに本部が存在するResearch Group on Collaborative Spaces(RGCS: 当該スペースにまつわる現象に関心のある研究者や実務家から構成される国際ネットワーク組織)のメンバーをはじめ,関心を共有する人々と引き続き「オンライン」で交流することが挙げられる。RGCSは,欧州や北米,南米,アジアの主要都市に約20の支部が存在し,当該地域を代表する機関の研究者や実務家が参画している。そのため,当該スペースはもちろん経営学や社会科学領域の先端的かつ示唆に富む理論,方法論,実践的動向等に関する情報・意見交換をおおいに期待できる。
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