研究課題/領域番号 |
17KK0042
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
青木 栄一 東北大学, 教育学研究科, 教授 (50370078)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2023
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キーワード | 教育政策 / 教育と政治 / 教育行政機構 / 教育例外主義 / 地方政府 / 教育長 / 一般目的政府 / 単一目的政府 |
研究実績の概要 |
最大の研究実績は世界的に著名な研究者(本科研の海外共同研究者)との国際共著論文を出版したことである(研究代表者がファーストオーサーかつコレスポンディングオーサー)。 「研究の目的」では「これまで自律的であった教育政策領域に対して、公選された政治家が改革圧力を加えるようになった過程と要因を解明する」とした。渡航後の海外共同研究者との検討を経て、まず地方政府を分析対象とすることとした。「研究実施計画」では量的研究を実施すると記したが、研究の過程で日米の政治と教育のコンテクストをふまえた分析が必要であると判断し、コンテクスト分析に強みをもつ質的研究を優先して実施することとした。具体的には日本の6つの市を対象としたケーススタディであり、特に渡航前に実施した6人の教育長へのインタビューデータを分析の素材とした。これに加えて、査読コメントをふまえ、6市の社会経済状況、政治状況、教育政策、首長の属性や政策等についてより深掘りした質的研究を行った。さらに、日本の教育委員会制度や教育分野の政府間関係についての歴史的変遷を英語で説明できるように概念や分析枠組を工夫した。たとえば、1956年に導入された任命制教育委員会制度はアメリカの文脈では首長統制制度であるといったことを英語で説明できるようにした。 分析の結果、日本では2015年に全自治体がアメリカでいうところの強い「首長統制」制度を採用したにもかかわらず、首長が教育分野に直接強く介入することはなく、首長が任命するようになった教育長も首長側に立ち行動せず、むしろ教育委員達と連携することが明らかになった。つまり教育長は首長と教育委員とを媒介するいわば「媒体」として機能することが発見された。 この意外な現象の背景には教育長が依然として教育職経験者が多いなどアメリカとの違いがあることが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のために2020年度当初に予定を大幅に繰り上げて帰国を余儀なくされた。2020年度以降、本務校での勤務を行いながら継続的に本研究課題に取り組むことができている。ただし、2020年度と2021年度は当初予定していたエフォートを割くことは必ずしもできなかった。 その間、海外共同研究者とのオンラインでのコミュニケーションを続けながら研究を実施し、2021年度に論文執筆を完了し投稿した。しかし、コロナ禍のためにジャーナル側で査読者の確保に手間取り査読結果を得るのに時間がかかった。 こうした状況ではあったが、ジャーナルと数度のやりとりを経て、2022年度は国際共著論文の出版にこぎ着けることができた。そのため進捗状況は前年度に比較して改善したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度初頭に急遽帰国して以来、本務の傍ら本研究課題を実施してきた。コロナ禍を受けた措置により研究期間を延長してきたが、2023年度が最終年度になる見込みである。すでに出版した国際共著論文の執筆過程で海外共同研究者との日米のコンテクストの違いについて相互の理解が深まった。そこで、本研究課題が当初予定していた日本の地方教育ガバナンスに関する量的な分析の基盤構築を目指す。具体的には教育委員会制度に関する政府統計データの整備を行う。先述の論文でも言及した、教育長の属性や2015年に新制度となった教育委員会制度の運用状況等について、旧制度期のデータとともに、データセットとして整備する。
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