【最終年度に実施した研究の成果】(1)一昨年度に着手した大学ファンド創設の政策過程について英語論文の草稿を仕上げ、国際セミナーで報告した。(2)新たに台湾の研究者(国立清華大学、国立台湾師範大学)と地方教育ガバナンスをめぐる教育と政治の関係に焦点を当てた研究に着手した。これは前年度まで実施したアメリカの海外共同研究者との研究成果を応用したものである。日本と台湾、そしてアメリカは地方分権を前提とした教育ガバナンスの政治化という共通の政策環境をもつという意味で、比較研究の対象としてふさわしく、本研究課題を今後発展させるための予備的研究活動という位置づけである。 【研究期間全体を通じて実施した研究の成果】最大の研究成果は、日本を事例とした研究を、海外ジャーナルに国際共著論文として掲載されたことである。これは従来の日本の教育行政学では必ずしも十分に展開されてこなかった研究成果であり、今後の若手研究者のロールモデルとなりうる。この国際共著論文の具体的内容は、日本で1990年代以降行われた地方教育ガバナンス改革(地方分権、首長への権限付与)の帰結を、同様の改革が大都市を中心に同時期に行われたアメリカの研究成果(海外共同研究者)を参照しつつ、比較研究の方法論を用いて明らかにしたものである。すなわち、首長が教育政策に関する権限を保持するようになったアメリカではドラスティックな教育改革が実行されるようになったのに対して、日本では穏健な教育改革が静かに進行しているという対照的な現象が観察された。この最大の要因は、アメリカでは一部の大都市で首長に教育分野の権限が与えられたのに対して、日本では全ての地方政府で首長に教育分野の権限が与えられたことであることを示した。ただし、今後は両国の改革動向は近似する可能性があることも指摘した。
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