令和元年度9月からカナダのカルガリー大学にvisiting schalorとして滞在し,以下の三つの研究を行った.いずれの研究も受け入れ先の大学で他の研究者と交流・意見交換をしながら実施された. 一つ目の研究では政府支出のサイズの変化が所得分布と経済成長率に与える影響について,理論的な検証を行った.本研究では個々人の研究・開発能力に異質性がある経済において,政府支出のサイズが「労働者か企業家か」という職業選択を通じて,経済成長率に与える影響を明らかにしている.分析の結果,政府支出のサイズが十分に小さい,もしくは十分に大きい場合には,政府支出のサイズの変化は経済成長率に大きく影響するものの,政府支出のサイズが極端な水準にない場合には,政府支出のサイズの変化は経済成長率にあまり影響しないという結果が得られた.これは,政府支出のサイズが極端な水準にない場合には,政府支出サイズの変化は所得分布には影響するものの,経済成長率にはあまり影響しないことを意味する.この分析結果は先行研究では指摘されてこなかったものであり,政府サイズと所得分布・経済成長率の関係について,新しい知見を与えるものである.この研究成果は論文としてまとめられ,現在査読付きの国際学術雑誌に投稿準備中である. 二つ目の研究は政治家のリーダーシップが政党形成とその下で決定される政策に与える影響に関するものである.近年,先進国を中心に大統領や首相など,政治家トップのリーダーシップに関する注目が高まっている.強いリーダーシップを持つ政治家の登場は政策の形成と,その下で決まる所得分布に大きな影響を及ぼすと考えられる.この研究はまだ基礎モデルの構築・分析が出来たばかりである.来年度には発展的なモデルを構築し,政治家のリーダーシップが職業選択や所得分布に与える影響を分析する.
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