本研究では,高齢期の意思決定に関する先端的な研究を実施しているスタンフォード大学長寿センターと連携し,相互独立を背景とし自己決定を尊重するアメリカと,相互協調的な判断を重視する日本の高齢期の意思決定を比較することを目的とする。これにより,文化的価値観の違いが高齢期の意思決定プロセスと選択後の後悔や満足度に及ぼす影響を明らかにし,多様な価値基準に応じた意思決定支援方法の確立を目指す。 2018年度はスタンフォード大学長寿センターに客員研究員として滞在した。受け入れ研究者であるProf. Carstensenは残された時間(余命)に対する認識が行動や選択に影響する社会情動的選択性理論を提唱し,高齢者が感情調整に動機付けられ,感情的満足を得るための行動や意思決定をすることを明らかにしてきた。 意思決定は直感的・感情的な処理と熟考的・理性的な処理が関与しているが,直感的・感情的なプロセスには文化差があることが知られている。例えば,アジア圏では穏やかな感情状態が重視されるが,欧米とくにアメリカでは覚醒度の高いポジティブな感情状態が重視される。しかしがなら,このような文化による違いが高齢期でもみられるのかは検討されていない。 また,重視される感情状態だけでなく,感情をコントロールする方法にも文化差があり,感情のコントロールにどのような方法を用いるかが,意思決定プロセスにも影響することが最近の研究より明らかになってきた。 2018年度は,意思決定時の感情プロセスにおける文化差に加齢が及ぼす影響を検討するための実験・調査方法を協議し,測定すべき変数の選定をおこなった。また,日本において意思決定と感情調整についての夫婦ペアデータの収集をおこなった。平成31年度にはアメリカにおいて調査を実施する予定である。
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