研究実績の概要 |
本年度は、共同研究者とともに社会的なルールの切り替えに関する新たな課題を開発し、日本人大学生を対象として実験室での測定・検証を行った。実行機能と比較した場合、社会的ルールの切り替え課題の遂行能力は、複数のコミュニティへの所属をよりよく予測する可能性が明らかとなった。このことは、実行機能のように一般化された認知能力の個人差とともに、社会的な情報処理能力の個人差が、所属コミュニティの多様化をもたらす可能性を示すものである。ただし、課題のパフォーマンスにおける個人差は想定よりも小さく、さらなる難易度の調整が必要であることも示された。また、課題で扱う状況が大学生の所属集団を想定した形で設定されているため、より一般的な文脈に適用可能な形に課題を修正することも必要である。なお、英語版の課題についても開発を行ったが、実施予定時期に新型コロナウイルスの感染拡大が重なり、メルボルン大学での参加者募集や実験実施が困難となったため、データの収集には至らなかった。さらに、社会的ネットワークの構造的特徴を把握するためのモデリングのパラメータを考案し、大規模データセットに対して適用を行い、一定の結果を得た。研究成果の一部は、オーストラリア・スウィンバーン工科大学のリサーチセミナーにて発表された(Igarashi, 2020)。また、国際フォーラムのパネリストとして、社会的ネットワーク分析の新たな展開についてのディスカッションに参加した(Igarashi, 2019)。
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