研究課題
本年度は、海外のクラウドソーシングサービスであるProlificで、オーストラリア及びアメリカ在住の人々を対象にデータ収集を行い、実行機能の課題切り替え能力が、複数の異なるルール(規範)を持つコミュニティ(集団)での適切な行動を駆動するかどうかを実験的に検討した。実験では、文化人類学領域で報告されている、世界各地で実施された経済ゲームの知見を参考として、複数の集団ごとに行われる分配課題における適切な分配値(その集団で相手に受け入れられる分配額=規範)を設定し、参加者がそれぞれの集団で適切な分配値を学習できるかどうかを、ボットとの相互作用実験を通じて検討した。分析の結果、課題切り替え能力が異なる集団で直接的に適切な分配値を予測するという傾向は見られず、これは日本人サンプルを対象とした知見とは整合しなかった。一方、対人反応性指標の下位因子である共感的関心得点が高い個人は、特に規範の学習が困難と考えられる集団において高いパフォーマンスを示した。共感的関心は他者志向的感情のひとつであり、自己視点に基づくバイアスからの離脱傾向を反映する、探究心や客観性といった指標と正の関連を示すことが知られている。このように、知見の一貫性という面では課題が残るものの、共感的関心の高さが集団における分配規範の学習を促進することを実証したことは、一定の意義があると考えられる。研究期間全体を通じて実施した研究の成果としては、(1) 社会的ネットワークのスキーマがネットワークの記憶成績に影響を与えることを明らかにした点、(2) 共感的関心によって異なる集団におけるルールの学習が促進されることを明らかにした点、の2点が挙げられる。これらを踏まえ、今後は個人の認知的側面と感情的側面の両方を考慮した上で、開かれた社会的ネットワークにおける能動的な相互作用を活性化するメカニズムの解明が期待される。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Letters on Evolutionary Behavioral Science
巻: 14 ページ: 1-7
10.5178/lebs.2023.100
Japanese Psychological Research.
巻: - ページ: -
10.1111/jpr.12436