本年度は観測誤差を含むパネルデータの新しい分析手法を開発した。観測誤差を含む回帰モデルは統計学・計量経済学の分野で膨大な研究があるが、本研究では共分散構造分析を用いた点が先行研究と大きく異なる点である。共分散構造分析は心理統計学の分野で多くの研究が行われていたが、経済学の分野では所得過程モデルの推定にのみ使われていた。そこで、本研究では共分散構造分析の経済学への応用として、観測誤差を含んだ投資関数の推定を考察した。投資関数では説明変数にTobinの限界Qが使われるが、限界Qをデータから計算することは一般的に難しく、多くの場合、計算が容易な平均Qを用いる。Hayashi (1982)は限界Qと平均Qが一致する条件を理論的に導いているが、その前提条件が満たされていない場合、限界Qと平均Qは異なるため、観測誤差が生じてしまう。このように、投資関数で観測誤差が生じることはよく知られていたが、十分に満足のいく対処法は提案されていなかった。そこで本研究では共分散構造分析を用いて、先行研究よりも緩い仮定の下で、推定精度の高い推定量を提案した。特に、非古典的観測誤差と言われる、観測誤差と説明変数の真の値が相関するケースを許している点が先行研究よりも優れている点である。数値実験を行って、先行研究で提案されている手法と本研究で提案した手法のパフォーマンスを比較したところ、本研究で提案されている手法は既存の方法よりも高い推定精度を持っていることが分かった。 現在、以上の結果を論文としてまとめており、論文が完成次第、査読付き雑誌に投稿予定である。
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