研究課題/領域番号 |
17KK0071
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
税所 真也 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任助教 (60785955)
|
研究期間 (年度) |
2018 – 2020
|
キーワード | 中国 / 家族 / 財産管理 / 成年後見制度 / 社会学 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,これまで国内の成年後見制度について考察してきた成年後見の社会化に関する社会学的な知見にもとづきつつ,中国の成年後見制度の現状と課題をフィールドワーク調査から明らかにすることである.日本と同様,中国でも成年後見制度への関心が高まっており,2016年から2017年にかけて審議され,30年ぶりに中華人民共和国民法通則が改正された.中国の法定後見では,血縁関係または親族関係が重視されることから後見人の担い手はほぼ親族であり,第三者が後見人となるのは例外的である.これに対し,任意後見では法定順位に縛られず,本人の信頼できる者が後見人として選択される.したがって,本研究では,任意後見の利用事例を中心に,中国で成年後見制度の運用に携わる関係諸機関および実践家を対象としたインタビュー調査を実施した(調査は2019年6月から12月にかけて継続的におこなわれた).分析対象を任意後見の利用者に絞ったのは,中国で成年後見制度がどう社会化されてゆくかを考察するうえで,第三者による後見人の利用事例を検討していくことが重要だと考えるからである.結果,中国における任意後見の利用事例として十数件を収集し,制度の利用選択をめぐる本人と家族がおかれた状況や中国都市部での財産管理をめぐる家族のあり方,そしてその変化を描出することができた.これら本制度の利用事例の分析を通じて,本制度が中国の伝統的な家族規範の遵守,あるいは反対に,伝統的規範からの解放のために利用されていることが浮かび上がってきた.次年度は,さらに分析をすすめ,中国の人びとの生活に生じている動向を財産管理の側面から捉え,変化する家族関係への理解を深めていきたい.なお,以上の研究成果は次年度,中国で刊行される学術誌に発表する予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,本研究課題の中心となる国外での重点的なフィールドワークを当初の計画通りに実施した.予想された以上に,中国国内での外国人によるフィールドワーク調査は困難をともなうものであったが,懸念された諸課題に対して海外共同研究者の協力を得ながら時間をかけて解決し,最終的には十分な研究成果を獲得できた. また上述の研究課題の遂行するなかで,中国の共同研究者および医療・福祉分野の実践家との学術・研究交流の推進を目的とした,以下のアウトリーチ活動を実施した.第一に,中日成年後見制度学術フォーラムを開催した(2020年1月17日,上海市華僑事業発展基金会).第二に,中国で開催されたふたつの学会に参加し,研究成果を報告した(2019年6月23日,上海市華東師範大学にて/2019年9月21日,北京市中国社会科学院).第三に,本採択課題の海外共同研究者所属部局である華東師範大学経済・管理学部代表者と採択者の所属機関長(東京大学高齢社会総合研究機構長)との研究交流の場を設定した(2019年6月12日,東京大学工学部8号館).第四に,独立行政法人国際交流基金による「日中知的交流強化事業(中国知識人・研究者個人招へい事業)」の研究協力者となり,東京大学高齢社会総合研究機構での受け入れを担当した(2019年9月から同年12月まで).この間,国際交流基金日本研究・知的交流部アジア・大洋州チームや北京日本文化センターの担当者と連携しながら,国内の研究者・実践家等へのインタビュー調査の場をセッティングし,フィールドワーク調査に同行し,学内での研究発表の機会をもうける等,研究活動のサポートをおこなった. 以上のように,本研究課題の遂行を通じて,本研究課題採択者の学術的成果のみならず,日中間の学術・研究交流の推進という観点からも一定の成果をあげることができた.よって,当初の計画以上の進展があったと評価した.
|
今後の研究の推進方策 |
中国における家族の変化を財産管理の面から捉え,中国の家族関係について理解を深めるためには,家族規範の変化を本制度の利用事例から浮かび上がらせる必要がある.そこで,本年度(2019年度)は,中国沿岸に位置する都市部を調査対象地としてフィールドワーク調査を実施した.調査対象地の選定理由は,本制度の利用件数がほかの地域より高く,また不動産をはじめとした財産管理への意識が強いといった特徴があるためである.これにより,一定の研究成果を導き出すことができたと考える.これらの研究成果をもとにして,最終年度となる次年度(2020年度)は中国で刊行される学術誌に発表する予定である. なお,今後のフィールドワーク調査については,中国内陸部での調査が予定されているが,新型コロナウィルス感染症の影響から,研究計画に大幅な変更をともなうことが予想される.したがって,研究計画を柔軟に変更し,オンライン会議の開催,あるいは出版物の刊行といった代替的なかたちでの工夫を図りつつ,引き続き,本国際共同研究を進めていく必要があると考えている.
|