研究実績の概要 |
本年度は覚せい剤(メタンフェタミン)を慢性投与されたマウスにおける1) 条件性補償反応の発達とその検出、2) 道具的行動過程の変容、について実験的検証を行った。 特定の場所(実験文脈)において間欠的かつ慢性的に覚せい剤を投与されたマウスは、薬物関連文脈において、覚せい剤の得られない日においてのみ徐々に超音波発声(USV)を増加させた。この発声は実験文脈暴露と薬物投与の間に4時間の間隔を設けた統制群では見られず、したがって文脈と薬物との条件づけの結果として生じた条件反応であることが確かめられた。この結果は薬物依存の機序を解明するために極めて重要な知見である。すなわち、慢性的な薬物摂取の結果、薬物手がかりが負の情動状態を生体内に生成し、それを解消するために更なる薬物摂取が生じるという依存形成の仮説に対して、そうした過程を反映しうる具体的な行動指標を得ることができた。またこの発声が薬物への「期待」ではなく条件性負情動を反映していることも追加実験から確かめた。この研究の一部は本年度の学会で報告し(Nagai & Kosaki, 2021)、追加実験を含めた研究全体について現在論文を執筆中である。 一方で、慢性薬物投与が道具的行動の習慣化を促進するという仮説については、習慣形成の促進を検出するための訓練パラメータを変動させ複数の実験を実施したが、仮説に一致する結果が得られなかった。この原因としては、習慣化を計測するための強化子低価値化手続きについて未知の要因があることが考えられた。特に、強化子の飽和化による低価値化では習慣の検出が難しいことが最近の論文で報告されており、この知見を反映させ、異なる手続きを用いて再度実験を行う必要があると考えられた。 全体として、薬物依存の機序解明に向けて、今後の更なる展開に繋がる重要な成果が得られたと言える。
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