研究課題/領域番号 |
17KK0083
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川口 悠介 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (00554114)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | 北極海 / 地球温暖化 / 海氷減少 / 海洋乱流 / 内部重力波 |
研究実績の概要 |
本課題の中心的位置づけにあるMOSAiCプロジェクトが2019年9月にスタートした。本プロジェクトは、ドイツ・Alfred Wegener Institute(AWI)の砕氷船Polarstern号を北極海の中央海盆域の海氷と一緒に漂流させながら、約1年にわたり北極海の大気・海洋・海氷の調査を目的とした調査航海である。この中で、研究代表者(川口)は海洋物理班に所属しており、チームでは厚さ約1.5mの氷上に観測ステーションを設営し、海氷下の物理変数を日々取得している。具体的には、海洋の力学構造を把握する上で基本となる海水の温度・塩分・圧力(いわゆるCTD観測)や海水中の微小乱流を検出する乱流計による観測(MSSという機材を用いる)、海洋上層の流れを鉛直的に多層間で検出するドップラー流速観測などが行われている。これらチームでの観測に加え、海氷内部の温度を自動で計測し、衛星通信でデータを送信するイリジウム式の漂流ブイを用いた観測について川口が中心となって観測を進めている。詳しいデータ解析は今後の課題であるが、まずは当該国際プロジェクトが予定通りに開始し、2020年5月現在も継続していることが本年度の最大の実績といえる。科学的な側面としては、海氷漂流の運動特性と海氷直下の海洋混合層内の熱エネルギーの循環に注目しており、海氷運動がもたらす内部重力波による乱流熱輸送が、海氷の熱的な成長や融解にどれだけ寄与し得るのか?、結氷・融解期の観測データを観察することで北極の海氷減少の実態解明に迫りたいと考えている。なお、2019年度の派遣国での研究活動としては、3月下旬から6月初旬にかけてドイツ・ブレーマーハーヘンにあるAWI本部、および、欧州関係諸国の研究所(ノルウェイ・NPIなど)に滞在し、Polarstern号での観測準備や研究遂行に向けた共同研究者との打ち合わせの機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遅延しているという表現は正確ではないが、コロナウィル氏感染症の国際的な拡大によってプロジェクトの遂行に多方面で影響が生じたため、今年度の進捗状況として「やや遅れている」という自己評価を下した。まず、2019年9月にMOSAICプロジェクトが始動し、2020年2月まではデータ取得を含めほぼ全ての研究活動・項目が順調に進んでいた。しかしながら、2020年3月頃から国内・外で顕在化し始めた新型コロナウィルス感染症の影響が当該プロジェクトの遂行にも色こく影響を与えた事実は認めなければならない。データの取得に関しては、2020年1月に派遣された観測隊が現場での滞在期間を延長することでデータ損出の危機を脱することができ、結果的にほぼ計画通りのデータ取得が達成された。一方で、本課題の代表者である川口が参加する予定であった3月後半からの派遣が、各国の渡航・入国規制の対象となったため見送られてしまった。上記のようなハプニングを含め、コロナウィルス感染症による国外での研究活動の制限・遅延について、今後の対策等を検討している最中である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度以降の研究の方針について、今後は世界的なポスト・コロナ期への移行が考えられ、当然、本課題の研究計画にも変更が余儀なくされるものと見込んでいる。具体的には、欧米諸国や観測現場への渡航が困難な状況が長期間継続される可能性がある。そのため、リモートワークやオンラインコミュニケーションなどのインターネット技術を活用しながら、観測に関する情報の共有、共同でのデータ解析作業を遠隔で進めていかざるをえないと考えている。そして、感染症の問題が落ち着いた暁には、今年度内にもドイツのAWIやノルウェイのNPIを訪問し、観測機材の後処理やリカバリーなどの実務的作業を執り行うと同時に、相手国の研究者らと今度の展開について"face-to-face"で協力関係を深めることを第一に考えていきたい。
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