研究課題/領域番号 |
17KK0087
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 雅人 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 准教授 (00726599)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2022
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キーワード | 可積分系 / チャーン=サイモンズ理論 / 格子模型 / 場の理論 |
研究実績の概要 |
前年度までの研究において,4次元チャーン=サイモンズ理論から2次元の可積分格子模型及び可積分場の理論を構成する方法については理解が進んでいる.それらの研究トピックについて,既に3編の論文を渡航先の受け入れ研究者であるKevin Costello氏及びEdward Witten氏との共著論文として発表し大きな成果をあげてきた. 本年度はその理解をさらに深化させるために,2次元の可積分格子模型及び可積分場の理論の関係をより直接的に4次元チャーン=サイモンズ理論から理解する研究を推進している.一般的な期待として,可積分格子模型が存在する時,その格子の間隔を小さくしていく極限(格子サイズを高エネルギーについての紫外発散を正則化するパラメータと思ったときに,低エネルギーに移行する極限)を考えれば可積分な場の理論が得られると期待できる.しかし,実際にこの極限操作を実行することは一種の繰り込み群の操作を伴っており,正確にどの場の理論とどの格子模型が対応するかを正確に理解することはしばしば困難である. 本年度は筆者はカブリIPMUの博士研究員などともに,可積分格子模型と場の理論をそれぞれ4次元チャーン=サイモンズ理論から実現することで,両者の関係を深めることに成功しつつある.この理解を用いれば,可積分場の理論を可積分格子模型に使われるテクニック(例えば代数的ベーテ仮設)を用いて研究することが可能になるので,場の理論そのものの理解も深まることが期待できる. 同様のアプローチは既に80年代にFaddeevなどの研究者により考えられてきたが,今回の研究では筆者らが提唱した4次元チャーン=サイモンズ理論を用いることで今までよりもはるかに広いクラスの理論を系統的に扱うことができるようになったといえる.これらの成果をまとめた論文を現在鋭意執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コロナによる海外渡航の制限に伴い,当初予定していたペリメーター研究所への渡航が行えず,やむを得ず研究計画をさらに一年延長することを余儀なくされた.しかしむしろこの形式的な遅れを積極的に生かすべく,本年度は海外渡航の代わりに関連事項の勉強を進めるなどし,当初計画を超えて新たな成果を生み出そうとするより野心的な計画へと発展的に計画を変更することとした.それに伴って,渡航先もアメリカUCバークレーへと変更し,アメリカにおけるコロナの感染拡大がひと段落した令和3年度の年度末から令和4年度の年度初めにかけてUCバークレーへの渡航をおこなった. 渡航先では思いもかけず同時期に同地の数学科に滞在していた表現論の研究者と可積分系に現れる無限次元代数の表現について議論することもできた.また,本研究に関係して,operと呼ばれる数学的対象と4次元チャーン=サイモンズ理論との関係についても現地の研究者と議論を進めることができ,それについても新たに研究を進めることになった.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度5月までに,当初予定していた海外渡航の日数はすませ,本研究費の予算は消費されることになったと理解している.しかし,オンラインでの研究がより活発に行われるようになった現在,ある意味海外渡航そのものは新たな研究を始めるためのきっかけを与えるものに過ぎず,渡航の後の研究こそが海外渡航そのものに比するほどの重要性を持っていると考えられる. 従って,今後は海外の共同研究者とメールやzoomなどで定期的に連絡を取り合うなどして,研究を推進し論文の執筆を進めていきたい.具体的には,まず上記に述べた可積分格子模型と可積分場の理論についての研究を進め,できれば令和4年度内にはプレプリントサーバーに発表することを目標としたい.また,UCバークレー滞在中に開始した研究については,必要な関連論文を読み込むなどしてさらに準備を進める一方で,具体的な論文執筆にも着手したい.これらの新たなプロジェクトについては現時点ではその完成のための具体的なタイムラインを明示することは容易ではないが,令和4年度中には何らかの目処を示したいと考えている. 令和4年度は延長を経た今回の研究の最終年度であるが,科学研究者として最も重要なことは創造的かつ深みのある練られた成果を発表することであるはずであり,また本研究をより長期にわたる研究プログラムの中に有機的に位置付けることのはずである.
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