物理学の世界では問題が厳密に解けることは稀であり、従って何らかの近似が必要とされることがほとんどである.しかし驚くべきことに、これまでの数学・物理学では厳密に解くことができる模型が数多く見つかっている.筆者はこれまで,今回の海外渡航における受け入れ研究者であるアメリカ・プリンストン高等研究所のEdward Witten教授およびカナダ・ペリメーター研究所のKevin Costelloの両氏と共同で,4次元チャーン=サイモンズ理論という新しい手法を導入し,可積分系の謎の解明にあたってきた.これまでの4次元チャーン=サイモンズ理論の研究においてはもっぱら可積分格子模型が議論されてきたが,本研究においては,まずこの議論を2次元可積分場の理論に拡張することを目指し,その成果をKevin Costello氏との共著論文として発表した.この論文の引用件数はすでに80件を数えるなど,大きな注目を集めている.また,本研究の後半期間では,さらに可積分の1次元格子模型と2次元場の理論との関連についても,4次元チャーン=サイモンズ理論の立場から研究を進めており,現在100ページを超える長大な論文を準備中であり,まもなく公開することができる予定である.この論文ではこれまでごく限られた例でしか議論されていなかった可積分場の理論の格子離散化を極めて一般的な枠組みで議論することに初めて成功した一方,新たな可積分場の理論の双対性を発見するなどの副産物も得られた.また,コロナの影響により海外渡航に影響が出た際にも,計画を一部変更してUC Berkeleyに渡航し,そこでの数学者と4次元チャーン=サイモンズ理論についての新たな共同研究を開始することもできた.なお,本研究の成果をもとに,筆者を研究代表者とする科研費基盤Bが提案され,2023年度より研究が開始されることとなった.今後の更なる発展に期待が持てる.
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