フォノン同士の散乱が、散乱の前後でフォノンの運動量が保存される正常散乱によって支配される場合、フォノンは試料中をあたかも流体のように伝搬することが期待され、古くに純良な固体ヘリウムにおいてその現象が実験的に確認されている。 本研究は、2次元層状構造をもつ半導体黒リンにおけるフォノンの流体的熱輸送の発見を契機として、顕著な流体力学的フォノン輸送が期待される2次元層状構造をもつ固体結晶に焦点を当て、それらの熱輸送特性を系統的に明らかにすることを目的としている。 本年度は、黒リンと類似した結晶構造をもつ2次元層状物質であるグラファイトを対象に研究を行った。その結果、フォノン流体の特徴に一つであるフォノンによるポワズイユ流の兆候を熱伝導率測定から捉えた。またこの特徴が黒リンと比べて高温域で現れることを見出した。この違いはグラファイトの層間の結合が黒リンに比べ弱いことに起因している可能性が考えられる。
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