本研究では米国Princeton大学に長期間滞在し、James M. Stone教授らと共同でAthena++コードの開発を行った。Athena++は宇宙物理学向けの汎用性の高い磁気流体計算コードであり、開発したコードやドキュメントはインターネット上で公開している。本研究ではMultigrid自己重力ソルバの解適合細分化格子(AMR)への対応と、その輻射輸送への拡張に取り組んだ。 自己重力ソルバについては、AMR上でも非物理的な構造が生じない離散化を取り入れて正確に計算できるコードを実装した。一様格子ではFull Multigrid法という一回のイテレーションで収束する非常に強力な手法があり、AMRでもこれを実装したが、AMR上では一回では期待する精度には達しないことが分かった。同種の問題は他のコードでも報告されており、これは手法の限界であると考えて複数回のイテレーションによって精度を改善することとした。これにより多少計算コストはかかるものの安定した計算を実現した。 更に、Multigrid法を拡散近似の輻射輸送に適用した。非線形な問題に対応するためにFull Approximation Schemeを実装し、拡散係数の空間分布が比較的滑らかな場合には良好な性能を実現できた。一方で拡散係数が急激に変化する場合や非線形性が強い場合には収束性に悪影響があることも分かった。Multigrid法では異なる分解能の格子を用いて解を緩和させるが、拡散係数が急激に変化する場合は粗い格子が細かい格子の良い近似にならないためと考えられる。粗い格子への粗視化には幾つかの手法があり、今後これらを比較検討し手法の改善を行う予定である。 また、Athena++コード全体を総括する論文を執筆し、ApJSに投稿した。
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