研究課題/領域番号 |
17KK0092
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
並木 敦子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (20450653)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2023
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キーワード | マグマ / 粘弾性 / 溶岩流 / 気泡 / 火山 |
研究実績の概要 |
本研究は以下の3つのパートからなっている。(1)ハワイ島における噴火の観測、(2)Lamont-Doherty Earth Observatory(LDEO)における気泡を含む溶岩流の実験、(3)GFZ-Potsdamにおける地殻中のマグマ上昇の研究。 (1)については2018年にハワイへ渡航し、この年に起こったLower East Rift Zoneの噴火を観察する貴重な機会に恵まれた。この噴火で観測された溶岩噴泉の赤外画像から、火山ガスの急膨張による温度低下がマグマの表面を冷やす事で破砕が起こりうる事を見積もった。この結果は2021年にNature Geoscienceに出版し、完了した。 (2)については2019年にLDEOを訪問し、気泡を含む溶岩流の実験を行った。(1)で観察した溶岩は気泡の体積分率が高く、この状況を模した実験とした。帰国後に実験結果の解析を行い、2020年12月にAGU Fall meeting にて概要を発表した。2021年度は更に解析を進め、論文としてまとめた。2022年に出版し、完了した。 (3)については、2020年3月に、実験の為ドイツに行ったが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により緊急帰国した。その後、実験を再開するのが難しかった為、この分野の基礎的な概念をまとめたレビュー論文を共著で執筆し、Nature Reviews に掲載した。 以上のように研究が進んだため、これらの結果に基づき破砕したマグマの挙動の理解を進める為、2022年度は粉粒体として振る舞う破砕したマグマが起こす火砕流について研究を始める事とした。UC Santabarbaraにおいて行われたKITP Program: Multiphase Flows in Geophysics and the Environmentに参加し、粉粒体の研究を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた研究は上述のように完了している。繰り返しになるが、以下にまとめる。(1)2018年ハワイ島キラウエア火山の噴火に関しては溶岩噴泉の観察と噴出物の解析に基づいた論文を2021年に出版した。(2)気泡を含む溶岩流の実験については実験を行い、その結果を2022年に論文として出版した。(3)マグマ上昇の研究については2021年にレビュー論文を出版した。よって、当初の計画から多少の変更はあったものの、計画された研究についてはすでに成果がでており、その成果を発表している。よって、十分に進捗していると言える。一方、計画を進めるうちに、研究するべき新たな問題も発見した。特に、噴火したマグマがより細かく破砕しながら広範囲に到達する過程は防災上も重要であり、この点について理解を深める為、2022年にはUC Santabarbaraにおいて行われたKITP Program: Multiphase Flows in Geophysics and the Environmentに参加した。参加者の方々と議論した結果、破砕しながら流れ下る火砕流について研究を進めるアイデアを得た。
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今後の研究の推進方策 |
今後は破砕しながら流れ下る火砕流について研究を進めていく予定である。雲仙普賢岳の崩落型火砕流の例にみられるように、溶岩ドームはもともと溶岩の塊である。この塊がそのまま崩落しても大きな災害となるが、この時溶岩が細かく破砕した場合火砕物は流動性をもつ。その結果遠くまで到達して被害の範囲が拡大する。実際、流れ下る最中に破砕が起きて火砕物の流動化を促進していると指摘されている(Breard et al., 2023)。よって、流れ下る過程において破砕が進むかどうかは極めて重要な問題であり、破砕しながら流れ下る火砕流の実験を計画している。火砕流中で破砕が発生するか否かを検証する為には、火砕流中の火砕物の破壊強度と火砕物が経験し得る衝撃を比較する事が必要である。また、火砕物の破砕がおきた場合、どのように堆積するのか知る事で、地質調査から破砕の有無を検証する事も重要である。今年度は多くの気泡や亀裂を含む火砕物の強度について評価し、今後の研究の進展につなげたい。
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