Hamilton-Jacobi(HJ)方程式や幾何学流に現れる非線形偏微分方程式について,粘性解理論,弱KAM理論を発展させて,「退化粘性HJ方程式の力学的構造」の理解を目指す.具体的には,HJ方程式の特異極限の一つである均質化問題の解の収束率と,解の長時間後の挙動について解明することを目的とする.2020年度では,特に,退化粘性HJ方程式の解が長時間後に収束する解が,どのように初期値に依存するかについて解明でき,論文としてまとめることができた.この退化粘性HJ方程式の解は,最適確率問題における最小化問題の値関数として記述されることはよく知られる.一方で,特に拡散項が退化する場合には,この値関数について詳細に解析することは大変難しい.この点を克服するために,値関数を測度に関する最小化問題として記述できることを示し,このことを利用して,弱KAM理論に現れるMather測度,Aubry集合,Mane臨界ポテンシャル関数,Peierlsバリアー関数といった概念について自然な拡張を与えることができた.これらの応用として,長時間後の初期値の依存性についても解明できた.また,最適輸送に関する双対性に関する結果もいくつか得られた.以上を論文としてまとめて投稿中である.また,凝結・分裂モデル方程式に現れるHJ方程式に対して,その解の長時間挙動に関して解析をした.この方程式は,凝結・分裂モデル方程式のある臨界状態に,Bernstein変換を通じてHJ方程式として記述されることが近年着目されていて,今後の発展が期待できる.
2020年度において,国際共同研究強化の受け入れ先のカリフォルニア大学アーバイン校のYifeng Yu教授を長期で訪問する予定であったが,コロナ禍の影響で残念ながら中止にせざる終えなかった.
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