研究課題/領域番号 |
17KK0096
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
町田 正博 九州大学, 理学研究院, 准教授 (10402786)
|
研究期間 (年度) |
2018 – 2020
|
キーワード | 磁気流体 / 星形成 / 惑星形成 / 円盤形成 / ジェット / 原始惑星系円盤 / 偏光観測 |
研究実績の概要 |
この研究では強い分子雲コア中での星形成過程を解明するため、磁場の散逸を考慮した数値シミュレーションを実行し磁場の向きに対するアウトフローや円盤の方向を系統的に調べた。星形成過程で磁場は非常に重要な役割を果たすことが分かっている。近年ALMA望遠鏡などの偏光観測によって星形成過程の様々な空間スケールで磁場の方向が調べられるようになった。従来磁場は乱流などにより乱されていることが予測されてきたが、近年の観測では磁場の向きがあらゆるスケールでよく揃っていることが示唆されている。しかしながら観測は大局的な磁場の向きとアウトフローの伝搬方向や円盤の法線方向が揃っていないことも示しており、新たな問題として認識されるようになった。この研究では観測を説明するために分子雲コアの回転軸が磁場の方向とは揃っていない場合の星形成過程の数値シミュレーションを行った。従来星形成過程の3次元シミュレーションは簡単化のために磁場の回転軸の方向が揃っていると仮定し計算が行われてきた。この場合当然ながら磁場の向き、アウトフローの伝搬方向、円盤の法線方向は完全に一致する。しかしながら分子雲コア中の磁場の方向と回転軸が完全に一致している仮定は現実的ではない。回転軸は局所的な乱流や分子雲コアの形成過程で決定するため磁場の方向と完全に一致はしていないことが示唆されている。このシミュレーションでは磁場と回転軸の角度をパラメータとして分子雲コア中で星や円盤が形成し、アウトフローが十分成長するまでの計算を行った。その結果、初期に分子雲コアを貫く磁場の向きと回転軸がわずかでもずれていれば、アウトフローの向きや円盤の法線方向は大局磁場の方向とは大きく異なることが分かった。この研究により近年の異なるスケールの偏光観測の結果をよく説明することが出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子雲コアスケールの大局的磁場に対する星周円盤の向き、高速ジェット、低速アウトフローの伝搬方向を調べるために、異なる2つの数値シミュレーションを行った。一つは高空間解像度計算により原始星と原始星近傍から駆動する高速ジェットの進化を調べるというものである。この研究によって星形成過程で現れるアウトフローは速度成分ごとに伝搬方向が異なることが示された。この結果は我々がALMA望遠鏡を用いて発表した内容と整合的であり多くの観測を説明する。この研究の内容は2020年に国際誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載された。上記の高空間分解の研究では原始星やジェットを空間的に解像出来るが数値計算で長時間の時間積分が困難になるため星形成の初期の進化しか調べることが出来ない。そのため、解像度を犠牲にして低解像度で長時間積分の円盤、アウトフローの進化計算を行った。従来、磁場が強いと磁気制動によって過剰に角運動量が輸送され回転円盤が成長出来ないという問題が存在した。この問題は磁場と回転軸がそろっているという仮定のもとで研究されてきた。他方、磁場と回転軸の向きが異なる場合は、磁気制動の効率がより強くなり回転円盤が出来ないという主張と効率が悪くなり円盤が出来やすいという異なる結果が示されていた。この研究では長時間計算を行い、回転円盤の進化について調べた。その結果、磁力線の配位により円盤形成初期では磁場と回転軸が揃っている方が磁気制動の影響が弱く円盤が成長しやすいが、より後期の段階では磁場と回転軸が揃っていない方が磁気制動の効率が悪くなり円盤が成長しやすいということが分かった。この研究により異なる先行研究の結果を統一的に説明することが出来た。また、研究結果は、現在 The Astrophysical Journalに投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
近年、観測によってClass 0段階と呼ばれる非常に若い原始星周りの回転円盤が観測されるようになってきた。Class 0は原始星とその周囲の円盤にガスが激しく降着している段階であり、おおよそ10万年程度続くと考えられている。我々の計算は中心星を空間的に分解していない場合でも原始星形成後1万年程度しか時間積分が達成されていない。しかし数値計算コードの高速化により、現在の数倍長い期間の計算は可能であると考えられる。今後の研究では、これまでの研究を継続して、より長時間の円盤の進化を調べる。近年の観測から円盤のサイズは時間と共により大きくなるという結果と、一旦成長した後にサイズが減少に転じるという異なる結果が報告されている。円盤成長のタイムスケールは、10万年以上であるため、観測される円盤は成長のある段階のスナップショットであり観測から円盤のサイズの時間進化を理解することは困難である。円盤のサイズは惑星形成や生命居住可能惑星の形成過程を理解するために非常に重要である。そのため、今後の研究では星形成過程の長時間進化計算を行い、円盤の成長過程を調べる。その際に、円盤のサイズの違いは星形成環境のどのような要因(パラメータ)に依存しているのかを調べる。また、引き続き分子雲コアを貫く磁場の向きと回転軸が異なる場合の進化の長時間進化を行い、磁場が果たす役割についても詳細に調べる。現在と同じ空間解像度で、当面は星形成後10万年の進化の研究を行う。その後、可能な限りClass 0の次の段階であるClass I段階の研究を行いガス降着期の円盤進化を解明する。
|