研究課題
本課題では、DNAと正電荷性高分子からなる複合体の高次構造制御とそれを遺伝子ベクターとして医療応用しようとする基研究を、ナノメディシンの臨床応用研究を進めるグループとの協議を通じてステップアップを図る(課題(1))とともに、生物物理学のグループと共同することで高次構造形成の基礎学術を深化させること(課題(2))、さらに新たな核酸治療システムを構築すること(課題(3))を目的としている。2022年度は、引き続き蔓延する感染症のため海外の共同研究先に滞在しての研究を延期せざるを得なかった。一方この間、本国際共同研究加速基金の活動を通じて構築した研究者ネットワークにより、核酸-ペプチド複合体の形成プロセスをシミュレーションで検討する国際共同研究をインド国立計算科学研究所のグループと開始し、核酸といくつかの正電荷性高分子との会合挙動の計算を行った。この結果、高分子の化学構造によって相互作用モードが異なっていることが明らかとなり、より安定なDNA/正電荷性高分子複合体を得るための具体的な分子設計指針を見出した。この結果を受けて、当高分子を用いて、核酸を全身投与でがん細胞に送達し、制がん剤の薬効を飛躍的に高める核酸治療法を新たに着想し、検討を開始した。また、ミシガン大学医学部(米国)と進めている循環器系疾患を標的とした遺伝子治療研究は、遺伝子ベクター形態、投与法、治療遺伝子など最適条件を決定する動物実験を進めている。さらに、がんに対して免疫系と協働する遺伝子免疫治療戦略を新たに着想し、予備検討で強力な制がん効果が得られることを確認した。これを受けて本年度は群を揃えて比較検討する実験を開始した。
2: おおむね順調に進展している
2022年度は、引き続く感染症蔓延のため海外共同研究先に滞在しての研究を進めることは叶わなかったが、メールやオンラインでのディスカッションを取り入れながら課題を進捗させた。具体的には、2020年度に開始した計算科学からDNA-正電荷性高分子複合体の会合挙動にアプローチする国際共同研究を進め、実験的に検証困難な原子レベルにおける会合挙動についての知見を得た。これにより、課題1の研究で用いている高分子材料に関する証左を得るとともに、課題3に用いる高分子材料の分子設計にかかる指針を得ることができた。また、計算科学の検証から導かれた高分子を使って核酸を全身投与でがん細胞に送達し、制がん剤の薬効を飛躍的に高める核酸治療法を新たに着想し、検討を開始した。課題1の基課題で開発した遺伝子ベクターの実用化を目指す研究は、米国ミシガン大学医学部において循環器系疾患を標的とした前臨床試験に進んでいる。また、遺伝子ベクターを使って免疫系を活性化する遺伝子免疫治療を新たに発案、予備検討で強力な制がん効果を確認したことから本格的検討を開始した。加えて、合成法の検討ならびに研究室環境の整備を進め、海外共同研究先で用意する高分子材料を自給する体制を整えた。このように本年度は海外渡航できなかったものの、本国際共同研究の目標達成に向け確実に前進していることから、おおむね順調に進んでいると評価した。
計算科学を用いた核酸-正電荷性高分子間の相互作用解析によって、核酸により強く結合する正電荷性高分子の分子構造に関する示唆が得られた。今後は、結合安定性に関する実験結果と合わせて成果のとりまとめを行うとともに、この高分子を基に核酸を全身投与でがん細胞に送達し、制がん剤の薬効を飛躍的に高める新たながん治療法の開発を行う。並行して、この情報を課題1で進める遺伝子ベクター研究に反映させるとともに、課題3で開発する新たな核酸治療システムに展開し、研究成果の重層化を図る。また、遺伝子ベクターの実用化に向けた取り組みに関しては、循環器疾患に対する治療戦略の確立を目指し、前臨床応用に向けた展開を試みる。予備検討で優れた制がん効果を見出した免疫と協働する遺伝子免疫治療は、適切な対照群を設置しつつ再現性の検証を行い、概念実証を試みる。一方で、海外共同研究先で用意する高分子材料を自給する体制を整えたことから診断治療システムとして開発、その性能評価を進める。これらの計画により、基課題の臨床応用に向けたトランスレーション研究を加速化するとともに、新規核酸治療システムおよび診断システムの開発を進め、本研究課題の目標達成を目指す。状況が許されれば国際共同研究先に出向き、成果のとりまとめを行うとともにさらなる展開について議論する。
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Journal of Controlled Release
巻: 347 ページ: 607-614
10.1016/j.jconrel.2022.05.030
巻: 352 ページ: 328-337
10.1016/j.jconrel.2022.10.032