研究課題/領域番号 |
17KK0103
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
富永 洋一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30323786)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | イオン伝導性高分子 / ポリエチレンカーボネート / 固体電解質 / リアクター / 高収率合成 / 二酸化炭素 / CCU |
研究実績の概要 |
本研究では、当該科研費(基課題)の基幹材料であるCO2/エポキシド共重合体(ポリカーボネート)の高収率合成に必要不可欠な未反応CO2・モノマーの分離・回収・再利用システムを開発し、それらをリアクターとしてラボスケールで完成させ、スケールアップの可能性を見出すことを目的としている。本研究の目的達成のために、材料化学分野だけでなく化学工学分野の観点から新たな反応系構築のための知見や技術を取り入れる。現在のポリカーボネートの合成法では、大量の液化CO2をモノマー(エポキシド)と触媒が入った圧力容器中に供給するバッチ式で反応させている。反応終了後、余剰CO2は大気中へ、未反応モノマーは生成物との分離操作を行って廃棄される。この合成法では、CO2やモノマーが浪費されるだけでなく、一定の反応時間経過後にある程度の量の反応物が反応して化学平衡状態になるため、生成物の収率向上は望めない。熱力学的観点から、ポリマー生成側への反応を進行させて収率の向上を図るためには、生成するポリマーを回収するとともに、反応物側に常に多くのCO2とモノマーを触媒存在下で供給する必要がある。さらに、反応による副生成物や不純物を除去しながらCO2とモノマーを高純度化していく必要もある。そこで本研究では、平均収率50%以上の高収率合成を可能にする連続式リアクターを新たに開発し、科研費研究のさらなる進展を図る。本年度は、準備段階として、海外共同研究者の所属機関を訪問し、以降の研究計画を打ち合わせるとともに、渡航先の研究環境や設備などの状況を把握することを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当該科研費(基課題)の最終年度であり、CO2/エポキシド共重合体(ポリカーボネート)型固体高分子電解質(SPE)の優れたイオン伝導特性に着目し、室温で10-3 S/cm以上のイオン伝導度かつ0.8以上のLiイオン輸率を達成するSPEの構成素材(共重合体・Li塩・無機フィラー)を決定し、セパレーター不要のフレキシブル電池の開発を目指した。最適な共重合体およびLi塩種・濃度を決定し、SPEとしての基礎物性を明らかにした。特に、FT-IR測定によるイオン溶存状態の解析が進み、前倒しで研究成果が得られているほか、新たなポリマーブレンドや末端修飾による電解質特性の改善に関する研究成果も得られた。電池特性評価に関しては、研究分担者や海外協力者の協力を得ながら十分な研究成果が得られた。これまでに得られている最適な構成素材(EO/EC共重合体・Li塩・無機フィラー)からなるSPEを用い、既設の電池作製システムを用いたコインセルの電池特性評価(充放電試験・サイクル特性)を行い、セパレーターを兼ねる電解質材料として実用化へ向けた性能を評価した。本研究の遂行のため、海外共同研究者の所属機関を訪問し、以降の研究計画の打ち合わせを行った。渡航先の研究環境や設備などの状況を把握し、当該科研費(基課題)の問題点であるポリマー収率の向上のための具体的な研究計画を明らかにした。さらに、本研究からの派生効果として、ポリカーボネートの持つ高い酸素バリア性をさらに向上する新しい材料の開発を行う具体的な研究内容も計画することができた。
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今後の研究の推進方策 |
当該科研費(基課題)では、ポリマーの低収率(通常10%以下)が研究の進展における大きな課題である。触媒の検討など材料化学的なアプローチだけでは限界があり、化学工学的な観点から合成の最適化を図る必要がある。そこで、未反応CO2・モノマーの分離・回収・再利用システムの設計指針をまとめ、リアクターの開発につなげる。海外共同研究者は、主に化学工学の観点から、共重合体合成の高収率化に必要な連続式リアクター開発のための基礎知見の提供や、モデル設計を進める上での専門的アドバイスを行う。渡航先では、未反応のCO2とエポキシモノマーの混合物を反応容器外に取り出し、それぞれに分離し精製するユニットモデルの開発を検討する。常温常圧で液体のプロピレンオキシドやシクロヘキセンオキシドをモデルモノマーとして用い、吸着層に通して微量のCO2などをモノマーから除去する精製ユニットを考案することで、混合物からの目的のポリマーの分離を容易にすることを検討する。さらに、分離回収後のCO2とエポキシモノマーを再び反応容器に導入する循環系モデルの開発を検討する。並行して触媒溶液も別途導入する流路の設計を検討する。続いて、CO2・モノマー分離回収ユニットの開発、CO2・モノマー循環系の開発を海外共同研究者と連携しながら進める。海外共同研究者との連携を続けながら、具体的な連続式リアクターの全体設計および評価を行う。分離回収ユニットおよび循環系を反応容器や配管系統などと統合し、反応系全体としてのリアクターモデルの設計、最適化および評価を行い、ポリマーの収率向上を目指す。最終的には、フレキシブル蓄電池の実用化に必要不可欠なポリマー生成のためのスケールアップおよび高効率化を達成し、基研究の加速を目指す。
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