研究課題/領域番号 |
17KK0109
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大脇 大 東北大学, 工学研究科, 助教 (40551908)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | Motion Hacking / 筋電気刺激 / 昆虫 / 脚間協調 |
研究実績の概要 |
本研究では,ナナフシの神経生理学的,動物行動学的研究,ならびにその知見を用いたモデル化,ロボットへの適用に関して高い業績を上げている研究機関であるBielefeld大学 (独)において,申請者が提唱している「運動へのシステム工学的介入による生物の適応メカニズムの解明」というアプローチを発展させる.具体的には,昆虫自身の感覚運動機能を残存させた状態で,筋への電気刺激により,脚の運動をハッキングする方法論(Motion Hacking法)を確立し,介入者の意図どおりに脚の運動を変化させたときの昆虫自身の神経系による脚間協調過程を観察することで,その背後に隠れた「ロジック」を明らかにする.
Motion Hacking法確立のため,申請者が主として筋への電気刺激装置の開発を担当する.Volker Dur教授(海外共同研究者 )からは,対象昆虫(ナナフシ)の行動神経学的知見に基づき,同刺激装置を用いた筋への刺激法(電極の位置,太さなど)を 検討し助言をいただき,試行錯誤を通して筋の選択的制御法を確立するための実験を共同で行う. Volker Dur教授は,生物学,計算論的神経動物行動学を専門とする研究者であり,昆虫(ナナフシ)の適応的な移動能力の解明を目指した研究を行っている.特に,動物行動学,電気生理学,数理でもリング,ロボットへの実装という多角的手法をベースに,さまざまな分野の研究者との学際的な研究を精力的に遂行しており,海外共同研究者として適任である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度は,脚の筋への電気刺激のための,筋刺激装置を開発した.Raspberry Piに外部回路を実装することで,4チャンネルの高精度PWM(Pulse Width Modulation)信号を生成可能な刺激装置を設計した.筋への電気刺激PWM信号の周波数,Duty比,出力電圧を任意に変更可能とすることで,これらのパラメータが生成させる脚運動に与える影響を検証した.
モデル生物として,V. Durr教授の研究室で飼育するナナフシ(Carausius morosus)を用いた.制御対象の筋としては,Protractor, Retractor, Levatorを採用した.第1段階の実験として,ナナフシを固定した状態で筋を刺激した際に対応する関節が生成する関節トルクを計測した.PWM信号のバースト時間T[s]と発生する関節トルクτ[uNm]の関係の調べた.設定したパラメータに対して,~500msの刺激時間の範囲において,刺激時間と生成トルクの間の線形関係を見出した.この結果は,筋電気刺激による脚運動の生成の可能性を示唆する結果である.
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今後の研究の推進方策 |
①筋刺激時間-生成トルクモデルの構築と,モデルに基づく発生トルクの予測 初年度に得られた筋刺激時間-生成トルクの間の線形関係に基づく生成トルクモデルを構築する.初年度においては,20個体において,さまざまなPWM信号に対する生成トルクを計測しており,そのデータを用いて,モデルのパラメータを推定する.パラメータの推定には,階層ベイズモデルを用いる.これにより,ナナフシの個体差によらないトルク制御モデルを構築する. ②歩行中の筋刺激による運動への介入と適応メカニズム検証実験 ①で確立したモデルにより,個体によらない生成トルクの予測が可能となる.この予測に基づき,ナナフシの歩行への介入実験を行うことで,適応的な脚間協調のメカニズムの抽出を試みる.
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