研究課題
ダイヤモンド状炭素(DLC)膜のsp2/sp3結合炭素比と耐熱性の関係を明らかとし,局所的な熱分解過程をタイの放射光施設(SLRI)との国際共同研究により明らかとする事を目的とし研究を2018年度に引続き行った.SLRIのX線吸収微細構造(NEXAFS)に併設した光電子顕微鏡(PEEM)を用いて炭素のk端付近(284 eV)のX線を照射しながら、放出される光電子の2次元分布像を観察し,構造変化を評価した. DLC膜の局所加熱によるsp2/sp3結合炭素の変化を評価するため,Nd:YAGレーザー(1064 nm)を照射し,照射痕内のsp2/sp3結合炭素の分布およびレーザー強度依存性について評価した.2018度と同じく,DLC膜は非水素化DLC膜及び水素を含むDLC膜など初期構造の異なる5種類をSi基板上に作製した試料を準備し,これらに日本で大気圧下でレーザー照射し,SLRIに持込み、照射痕のk端付近のPEEM像を観察した.レーザー照射により,sp2結合炭素が吸収する285 eV付近のX線を入射させた際の照射痕内のPEEM像において,sp2/sp3結合炭素比が局所変化していることが示唆された.数Wのレーザー照射においては基板である一部Siが露出し, DLC膜が熱により大気と反応している事も示唆された.現在、これら照射実験及び観察については4/5種類について完了した.一方,2019年末に予定していた1種類のsp2/sp3結合炭素の局所変化と熱量の関係および局所加熱時の熱による影響範囲を把握する事でDLC膜の炭素の結合状態の変化領域などを明らかにできる見込みを,これまでの結果から得ており,2020年度はこれらの研究を進め,DLC膜の摺動等の他の熱関係現象についても炭素の結合状態変化を捉える予定でSLRIと協働予定である.
3: やや遅れている
2018年度には予想できなかった世界的なコロナ感染拡大により,タイ王国側が日本人の渡航を制限した上にタイ国内をロックアウトしたこと,更には日本政府もタイからの渡航者に対して制限を設けたため,研究者の国際的な行き来が難しくなり,このために本研究実施者の途中帰国中にタイ国へ入れなくなったため,最後のSLRI滞在での2020年1月~3月までのタイ放射光研究所(SLRI)での放射光を用いた測定を含む,全ての研究がキャンセルとなった.現在,この入国制限およびロックアウトが解かれるのを待っており,当初予定していた,日本でのDLC膜試料の作製とSLRIでの測定という,相互往来による研究の効率的な運用が裏目に出た格好となった.一方でこの滞在分のマシンタイムSLRI側が保証してくれており,コロナ感染が収束して両国間の検疫の緩和がなされ次第,渡航して,測定予定である.
2019年度末のコロナ感染拡大による渡航制限により生じた研究の続きから始める予定である.SLRIに2019年度に作製した13Cや重水素などの同位体を含むDLC膜の局所加熱した試料をタイ放射光研究所(SLRI)に持ち込み,2020年1月~3月分の放射光施設のマシンタイムを使いsp2/sp3結合炭素の局所変化と熱量の関係および局所加熱時の熱による影響範囲を把握し,熱量による影響度の違いや炭素の結合状態の変化領域などを明らかとする.更にこれらの結果を基に,DLC膜の反応メカニズムについてSLRIの研究者と共同で公表すると同時に耐熱性向上のための指針を示す.
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Radiation Physics and Chemistry
巻: 173 ページ: 108944
https://doi.org/10.1016/j.radphyschem.2020.108944
Diamond and Related Materials
巻: 101 ページ: 107609
https://doi.org/10.1016/j.diamond.2019.107609