これまでのベルギー滞在中にアジド末端アルカンチオール自己組織化膜金基板上に固定化した蛍光分子を1分子スケールで観察する手順を概ね確立でき、その分子配向(蛍光分子のダイポール)が水平方向に制御されているという期待通りの結果が得られている。一方、正確な分子スケールの描像を得るためには、配向性の異なる界面分子モデルを追加で調製し、詳細な比較検討を行うことが極めて重要であるという結論に至った。そのため新規界面分子鎖モデルの調製と蛍光1分子計測に時間を要するため期間延長を申請した。しかしながら、コロナウイルス感染症の拡大のため渡航困難となり、国内で試料調製方法の検討を継続することとした。同じ蛍光分子で配向性が異なる界面分子モデルを調製することが困難であったため、架橋構造・リンカー構造の異なる市販蛍光分子を選択した。 さらに同じ架橋条件で調製したナノ分子鎖モデルを液中周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)および3次元走査型原子間力顕微鏡(3D-AFM)で観察した。アジド末端アルカンチオール自己組織化膜の表面にヒュスゲン環化反応によりナノ分子鎖モデルを固定化した結果、ナノ分子鎖が島状構造を形成しながら固定化される様子を可視化することができた。島状構造とナノ分子鎖が伸びた状態の長さがほぼ一致しており、ナノ分子鎖がトランス構造に近いコンフォーメーションで集合することで島状構造を形成していることが分かった。1分子蛍光観察で得られた分子配向性の情報と3D-AFMで得られた力分布を比較し、構造・物性の議論が可能となった。
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