研究課題/領域番号 |
17KK0116
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
吉本 則子 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (40432736)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2023
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キーワード | 断片化抗体 / 連続式反応分離システム / クロマトグラフィープロセス / アフニティークロマトグラフィー |
研究実績の概要 |
今年度は、連続式断片化抗体生成操作の収率と反応操作条件の検討を行った。 スケールアップが容易な片化酵素固定化担体として多孔性微粒子担体を使用し、長さ・内径の異なるカラムに充填し、流通式の反応カラムとして利用した。カラム内の物質移動特性を解析するために、低分子量サンプルとしてビタミンVB12(分子量1355 g/mol)を使用し、9~95塩基のpolyT(分子量2676~28837 g/mol)を用いて、カラム溶出時のピーク幅を測定し、細孔内における有効拡散係数を求めた。50塩基から95塩基のpolyTの分子半径が6~8 nmであり、がIgG抗体と同定の分子サイズとなる。VB12の溶出ピークの流速依存性は、ほとんどなく、担体における拡散抵抗はほぼ無いことが分かった。一方、50塩基、95塩基のpolyTは、速い流速では、ピークの分裂が起こり、細孔に入らずにカラムを通過するフラクションが観測された。今回、用いた固定化担体の粒子サイズは約200~400μmと大きな担体であったため、今後は、粒子サイズの小さい固定化担体を使用する予定である。 反応カラムをカラムオーブン内に設置し、10℃から40℃で温度の検討も行ったところ、温度とともに拡散係数が増加する結果が得られたが、素通りする画分は以前として残った。 また、昨年度までに構築した、後続にprotein Aおよびprotein Lのアフニティークロマトカラムを接続し、連続的に断片化抗体の生成と分離回収を行った。反応収率が60%まで高くなると、過剰に分解された抗体断片の素通りが見られたが、30%程度の収率であれば、未反応IgGと断片化抗体の回収が可能であることが電気泳動により確認できた。 今後は、分離カラムにおける精製効率および断片化生成物に対する温度の影響も考慮して、より高温での反応操作条件について検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、モノリス担体との比較のために、スケールアップが容易な、多孔性微粒子担体を用いた反応カラムでの検討を行った。抗体分子レベルの10 nm程度の核酸では、拡散抵抗の影響が見られた。細孔に入るものについて、温度を上げることで拡散特性を向上可能であることが分かった。 また、反応収率も温度が高い方が増加する傾向が見られた。ただし、過剰な断片化が進行するため、反応収率の最適化が必要である。 今回設置した温度制御型の連続式システムは、モノリス担体型のカラムでも応用可能であり、温度を上昇させることで分子拡散係数が向上するので、より反応収率を向上させることが期待でき、より高流速で短時間で目的の反応収率を達成できる可能性がある。 また、温度向上による抗体の安定性の低下については検討できていないが、モノリス担体で短時間での操作が可能であれば、安定性の維持もできる可能性がある。 今年度に得られた結果は、断片化抗体生成分離反応システム全体の課題点を具体的に明らかにするとともに、本研究課題で目的とするモノリス担体の有意性について、検証するための重要なデータとなると考えられ、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、下記の3点を重点的に行う予定である。 1.反応分離プロセスシステムにおよぼす温度の影響をより高い温度で調べる。 断片化酵素は固定化した場合に70℃付近においても安定であることが報告されている。このため、この温度においても反応を実施し、反応収率を向上可能であるかどうかについて、検討を行う。 2.材質・粒子サイズ・細孔サイズの異なる固定化担体に断片化酵素を固定化し、断片化酵素固定化担体の自作を行う。反応カラムにおける物質移動特性が反応収率におよぼす影響について、より詳細な検討を実施する。 3.アフニティー担体の吸着特性におよぼす温度の影響について検討する。拡散特性は温度の上昇とともに向上するため、一定の吸着特性の向上は期待できる。一方で、タンパク質の構造安定性についても考慮する必要がある。さらに、バルク水溶液中と異なり、担体との吸着時および脱着時の構造変化や、担体との接触が構造に及ぼす影響も少なくないと考えられる。このため、各ステップの操作時およびステップから回収したサンプルの構造状態について、二次構造、三次構造の状態の解析を実施する予定である。 上記3点についての検討を実施し、より高収率で安定な反応分離プロセスの開発を目指す予定である。
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