iPS細胞を用いた再生医療をはじめ,細胞の大量培養技術への期待が高まっており,手作業に頼っていた細胞の培養,剥離,回収,パターニングといった作業を自動化する必要がある.これまでに,培養基材に適切な固有振動モードを励振することで,酵素フリーで基材から細胞を剥離する手法や,回収・再播種を伴わない連続的な増殖培養を可能にする手法を開発した.しかし,細胞剥離メカニズムなどは不明であった.こうした手法を細胞培養のための基盤技術とするために,本国際共同研究では,表面弾性波(SAW)デバイスから発生する音響放射圧を培養ディッシュに対して領域選択的に照射することによって,プローブ等を必要とせずに非接触で細胞接着の力学的特性を明らかにすることを目的としている. ランジュバン型超音波振動子を用いて音響放射圧をディッシュ上に培養された細胞に局所的に超音波を照射した際に微小な領域から細胞を剥離するこれまでの研究成果を発展させ,共同研究先のUC San Diegoで製作したFocused SAWデバイスを用いて,より微小な領域への超音波照射を可能とした装置での局所剥離の成果を得た.この研究によって細胞12個程度の微小領域での細胞剥離が可能となった.これは,例えばiPS細胞のコロニーに相当する領域であり,局所的剥離として極めて有効である.また,UC San Diego滞在中に製作したSAWデバイスを用いて,細胞の接着力を定量的に比較する手法を新たに開発した.これにより,異なる培養条件において細胞の接着力が力学的に変化する様子を定量的に比較可能であることを明らかにし,現在,論文投稿を準備している.このほか, UC San Diegoに滞在中に発想した,Focused SAWデバイスを利用した新たな細胞塊生成方法の研究も進展し,現在国際共著論文を投稿中である.
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