昨年度は、窒化ガリウム(GaN)にイオン注入した希土類元素(Pr、NdおよびEu)の発光(フォトルミネッセンス:PL)に対する最適な共鳴励起波長を明らかにするとともに、発光遷移寿命の同定を行った。今年度では、更なる発光強度の増強のため、ナノ構造の形成による発光強度の増強に挑戦した。Prをイオン注入し、高温熱処理によって照射欠陥を除去したGaNエピ膜上に、電子ビーム描画、金属蒸着、ドライエッチング技術を用いて、円柱状あるいは四角錐状のナノピラー構造を形成し、ナノピラー中Prの発光スペクトルや励起光強度依存性を調べた。ナノピラーの長さは500nm、円柱の直径および四角錐の一辺を100nm~2umとさまざまなサイズに変化させた。その結果、200nm円柱ナノピラーにおいて最大20倍を超える発光強度の増強が得られた。 このようにして最適な励起条件を明らかにしたPr・NdドープGaNに対し、様々な周波数のRF信号を印加し、光検出磁気共鳴(ODMR)測定とその磁場・温度に伴う変化を調べたが、室温付近では有意な変化は得られなかった。しかし、PrのPLスペクトルが温度によって変化することを発見し、PLスペクトル変化によるナノスケール領域の温度計測、すなわち量子センシングが可能であることを見出した。今回計測した最小領域は100nmx100nm、そこに含まれるPr数は10000個であったが、計測系の高感度化により、原理的には1個のPrの発光スペクトルを観測することで原子スケール温度計測が実現できると考えられる。
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