2021年度は、任意分布をもつ波源から観測点の津波波形を高速に合成するアジョイント波形合成法を新たに開発した。さらにフォワード方程式に比較的簡便な変数変換を施すことでアジョイント方程式を導出可能であることを明らかにし、アジョイントモデルの構築を大幅に軽減する方法を見出した。開発したアジョイント波形合成法により、断層パラメーターセット、地点あたりの波形評価時間を1000分の1秒以下に短縮することに成功した。この効率的な波形評価法を用いることで、これまで困難であった津波の観測波形データから、断層の位置や長さ、幅など、波形と非線形な関係にあるパラメーターを含む全ての矩形断層パラメーターを短時間で安定的に推定することが可能となった。開発した手法を2012年Haida Gwaii地震津波に適用したところ、観測点が少なく疎らな地域であっても、波源近傍の3点程度の観測波形データから、より遠方あるいは観測点のない方向の津波波形を精度よく推定できることが確認された。 研究機関全体を通じ、津波波源推定における2大手法であるインバージョン手法と時間逆転イメージング手法を組み合わせた統合手法の開発を実施し、テストケースにおいて従来のインバージョン手法に対し14%の精度向上を達成した。この手法は観測波形データの時間逆転イメージングを活用して、基底波源を生成することで、精度向上を図っているが、データに応じて基底波源が変わるために計算時間がかかる点が早期予測の障害となっていた。最終年度にはこの部分の計算効率を大幅に高める手法を開発し、統合手法の早期予測への応用に大きく前進する成果を得た。
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