ベータ波は運動時に発生する脳波として知られているが運動中のどのような情報を表現するのか不明な点が多い.申請者はサルの大脳皮質運動野でベータ波の特定の位相が運動準備中に課題の条件に応じて出現する現象(位相ロック)を発見した.この現象の生理学的意味を調べるため,光遺伝学的手法を用いて神経活動を制御してベータ波の位相ロックの修飾を試みる. 基課題では麻酔下実験において一次運動野への光刺激で上肢運動の即時惹起が可能なほどに高効率な光感受性タンパクの発現に成功した.本課題では覚醒下の運動課題中においてベータ波と同期した光刺激によって周期的神経活動の変調とサルの行動変化の関係を明らかにすることを試みる.そこで覚醒行動下のサルの上肢運動の定量分析に豊富な経験を有し,かつベータ波について世界的第一人者であるシカゴ大学のDr. Hatsopoulosと共同研究をした. 当該年度はシカゴ大学にて記録に成功した光刺激時の上肢運動と神経活動の同時計測データセットについての詳細な解析を生活と治安に脅威のない国内で行った.またシカゴ大学における実験を参考にして東北大学にて実験装置を改良し,当課題の展開を可能にした.その結果,刺激後に運動を惹起せずに一次運動野の広範囲でベータ波の位相ロックが修飾されることを明らかにした.本結果は位相ロック発生に一次運動野の内因的な神経ネットワークダイナミクスが寄与することを示唆する.運動野の神経回路における振動的神経活動の生理学的意味を探求する調査について,その振動現象を発現させる機構の理解を本研究は助ける. また大脳皮質運動野で発生するシータ波とベータ波が記憶情報を表現する発見について査読有国際論文誌(オープンアクセス)に採択された.当論文は運動野の振動的神経活動が高次認知機能も表現するという視点について研究発展の起点になる.
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