本研究の基課題では、プレニル基転移酵素の立体構造情報から合理的に基質触媒機能を拡張することで、有用な化合物を生産する研究を進めてきた。そこで、本研究では、クライオ電子顕微鏡を用いて新規抗菌分子の標的分子の1つである自己重合繊維を形成する蛋白質であるFtsZの挙動を原子分解能で観測することで、FtsZの機能を抑制し、細菌の細胞分裂を阻害可能な化合物を探索・原子分解能での阻害機序を明らかにする新規抗菌活性分子探索法の開発を目指した。 化合物と混合することでFtsZの自己重合繊維が強固な繊維状態を保ち、細胞分裂が阻害されることを他の方法で予め知ることができれば、貴重な測定試料とクライオ電子顕微鏡のマシンタイムを浪費することなく測定・解析可能となる。一般的には、動的光散乱などの分析機器を用いることでFtsZの重合繊維の安定性を評価するが、用意できる化合物量は極微量のため、高感度かつ低用量で予備分析可能な測定法が必要である。 そこで、2020年度は、極微量な試料量で分析可能なナノフローHPLCと接続した質量分析計を用いることで、試料の構造状態を予め推測可能な測定系の構築を目指した。その結果、我々は異なる安定同位体元素を有する2つのホルムアルデヒド(軽ホルムアルデヒドと重ホルムアルデヒド)を比較対象分子にそれぞれ別に修飾し、異なる質量数で標識した試料を混合後して一度にLC-MS/MS分析することで、高精度に対象試料の存在状態を比較解析可能な分析系の確立に成功した。 さらに、LC-MSで算出した各アミノ酸のホルムアルデヒドとの化学修飾率の違いと、PDB情報から得たタンパク質分子の溶媒露出表面積比較することで、対象分子の構造状態を評価する手法の開発に取り組んだ。しかし、コロナウイルス感染の拡大による緊急事態宣言等の影響により、想定よりも研究計画が遅れ、評価系の確立までは至らなかった。
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