研究課題/領域番号 |
17KK0142
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小口 理一 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (10632250)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | 種内変異 / 生態学 / 温度依存性 / 可塑性 / 適応 / 順化能力 |
研究実績の概要 |
強すぎる光は光合成器官に傷害をもたらし、光阻害と呼ばれる光合成活性や成長速度の低下を引き起こす。これまで、植物が持つ光阻害回避機構について多くの研究が成され、葉緑体移動、熱放散、光化学系I/II均衡化(ステート遷移)、光化学系修復など、多様な回避機構に関する知見が蓄積されて来た。植物がこれだけ多くの光阻害回避機構を進化させてきたことは、光阻害耐性にそれだけ強い淘汰圧がかかってきたことを示唆するが、光阻害が種の分化・分布にどのように影響してきたかという知見は乏しい。本研究では、光阻害回避機構のうち、温度依存性があり、近年急速に研究が進んできた、光化学系I循環的電子伝達およびステート遷移能力の温度依存性にエコタイプ間で生育地の気温との相関が見られると仮説を立て、検証を行っている。世界各地で集められたシロイヌナズナエコタイプの種子をシロイヌナズナリソースセンター(ABRC)から取得し、共通圃場で生育した植物を、温度制御が可能なチャンバー内に入れ、複数の葉温で光化学系I循環的電子伝達および光化学系I/IIステート遷移能力を測定している。受入研究者であるオーストラリア国立大学のChow教授には、材料の生育と測定について協力頂いている。ウロンゴン大学のOsmond教授には測定機器の使用および測定で協力頂いている。これまでに、61エコタイプでの測定を行い、既に、低温での光化学系I循環的電子伝達速度およびステート遷移応答速度とエコタイプの由来地の気温との相関が観察されており、これらの光阻害回避機構についても低温で高い活性を保つ能力を獲得できたかどうかが集団の分化・分布に影響したことを示す初めての結果になると期待される。残り1年間でエコタイプ数を120エコタイプまで増やす予定であり、光阻害耐性機構のうちどの能力がどの程度、光阻害耐性の種内変異に貢献しているかを明らかにできると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
期待していたエコタイプの由来地の環境との相関が見られているものの、3年間を通して120エコタイプの測定を予定している中で、2年間で61エコタイプでの測定が終了した段階であるため。ターゲットとなるサンプルの同時測定数を増やすために1年目で使用した自動方向制御装置を、2年目でも使用予定であったが、使用できない不具合が生じた事が理由であるが、3年目では再度自動方向制御装置を使用できる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目で使用できない不具合が生じた、ターゲットとなるサンプルの同時測定数を増やすための自動方向制御装置を、3年目では再度使用する事で、測定できるエコタイプ数を増やす。また、必要によっては、渡航期間を延長して目標となるエコタイプ数の測定実現を目指す。ただし、COVID-19の世界的な感染拡大により、受け入れ研究機関であるオーストラリア国立大学への渡航には感染の収束を待つ必要があるため、COVID-19の収束にかかる時間によってはスケジュールの変更を行う必要があると考えられる。
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