強すぎる光は光合成器官に傷害をもたらし、光阻害と呼ばれる光合成や成長の低下を引き起こす。これまでに植物の多様な光阻害回避機構が報告されており、植物がそれだけ多くの光阻害回避機構を進化させてきたことは、光阻害耐性にそれだけ強い淘汰圧がかかってきたことを示唆するが、光阻害が種の分化・分布にどのように影響してきたかという知見は乏しい。本研究では、光阻害回避機構のうち、温度依存性があり、近年急速に研究が進んできた、光化学系I循環的電子伝達およびステート遷移能力の温度依存性にエコタイプ間で生育地の気温との相関が見られるかについて検証を行った。世界各地で集められたシロイヌナズナエコタイプの種子をシロイヌナズナリソースセンターから取得し、共通圃場で生育した植物を、 温度制御が可能なチャンバー内に入れ、複数の葉温で光化学系I 循環的電子伝達および光化学系I/IIステート遷移能力を測定した。受入研究者であるオーストラリア国立大学のChow教授には、材料の生育と測定について協力頂いた。ウロンゴン大学のOsmond教授には測定機器の使用および測定で協力頂いた。 2023年度は、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いたあとにようやく共同研究先に2ヶ月間滞在することができた2022年度終盤の渡航時に得られた結果の解析および日本でのデータの再現性の確認を行った。光阻害耐性に関わる新たな実験を行うことができ、光化学系のアンテナサイズの応答と光阻害の関係に新たな知見を得ることができた。期間全体を通しては、光化学系I循環的電子伝達速度およびステート遷移応答速度の温度依存性にエコタイプ間差が生じていることを示すことができた。特に光化学系I循環的電子伝達速度のエコタイプ間差には、光化学系IIよりも光化学系Iの温度依存性が強く影響していることが示唆された。
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