研究課題/領域番号 |
17KK0149
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
喜久里 基 東北大学, 農学研究科, 准教授 (90613042)
|
研究期間 (年度) |
2018 – 2020
|
キーワード | 暑熱ストレス / 種卵 / 肉用鶏 / 高温 |
研究実績の概要 |
暑熱環境下の肉用鶏の体内では代謝・内分泌・炎症などの様々な変化が複雑に絡み合うことで暑熱ストレス≒骨格筋量の低下が生じると考えられる。基課題では暑熱時に生じる上記変化の関連性を紡ぎ合わせ、ニワトリの体全体で生じる代謝破綻ネットワークを解明することが目的である。これに向けて「暑熱による不利益な生体反応」および「暑熱に適応するための正の応答」を判別する必要があるが、基課題における暑熱ニワトリvs 適温ニワトリの比較ではそれが難しい。本研究では種鶏や種卵へのマイルドな熱感作によって耐暑性が比較的高い個体を作出し、同個体と暑熱ニワトリ・適温ニワトリの三者間の遺伝子発現を比較することで上記の2反応を区別化することを目的とする。研究初年度のH30年度では、ベルギー・ルーベンカトリック大学バイオシステム研究科に在籍し、Livestock Physiology研究室のJohan Buyse教授と肉用鶏の耐暑性付与に関する研究討議を行った。基課題で得られた知見を紹介した後、同博士より、夏季および実験的な高温環境でも疲弊しないニワトリが一定数存在し、そのような個体では抗酸化防御システム、免疫(炎症)、体温調節(熱産生・熱放散)、ならびに食欲が高く維持されているとの情報を得た。今後実施予定の動物実験についても情報交換し、種鶏を同一農場に限定すること、飼料原料・組成をできるだけ統一化すること、対照(適温)条件の湿度をできるだけ低くすることなど、耐暑性付与やその後の解析に対する不確定要素を加えないとの助言を得た。これを踏まえ、ます高温孵卵の負荷後3週齢の熱耐性を評価した結果、急性暑熱感作中の浅速呼吸頻度や感作後の摂食量の回復(対照区レベルに戻るまでの時間)が著しく速いことが示され、モデル動物の作出は一部達成でき、今後は骨格筋や肝臓、脳の遺伝子発現解析を実施予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究に関する動物実験の一部は受入大学(ルーベンカトリック大学)において実施予定であった。しかし、東北大学で受講・承認された動物実験受講証が受入大学でも適用可能か否かの審査に時間を要したこと、ならびに研究費の執行ルールとして受入大学への入金ができず、また同大学では個人による研究費の執行を認めていないことから、動物実験の実施には至らなかった。しかし、上述したように、耐暑性付与に関する情報を得ており、今後所属大学で実施する動物実験条件がある程度設定されつつあることから、受入大学で実施できなかった動物実験をカバーすることは十分に可能である。
|
今後の研究の推進方策 |
H31年度は種卵の高温感作および種鶏の暑熱感作を経て作出された個体の耐暑性を評価する。前者に関して、これまでの試験と同様に市販孵卵場より種卵を入手することで実施可能である。具体的には、17-19卵齢時(ハッチャーに移動後)において39-41 °Cで感作し、その後、孵化後2週齢以降において急性暑熱感作を実施し、4区間(通常卵・高温卵×通常飼育・暑熱感作)での遺伝子発現応答を比較する。また、後者の種鶏を用いた研究では、試験場あるいは市販農場より、種付け後の種鶏を入手し、それを暑熱感作し、種卵を得る。その後、種卵を通常孵卵し、上述と同様に孵化後2週齢以降において急性暑熱感作を実施し、4区間(通常卵・高温卵×通常飼育・暑熱感作)での遺伝子発現応答を比較する。試験場あるいは市販農場とはすでにコンタクトをとっており、同鶏の提供に関して前向きに協議中である。得られた遺伝子発現データの解析にあたっても、外部委託あるいは所属期間(東北大学)のバイオインフォマティクス研究者と共同で実施する目途を立てている。なお、本研究は基課題との共同実施を模索しており、基課題でこれまでに明らかにされた、骨格筋ミトコンドリア過剰産生や腸管バリア機能破綻、アルギニン・アラニンなどの体内アミノ酸変動の観点からも相互かつ統合的に解析予定である。
|