研究実績の概要 |
本課題の実施は、平成29年度に終了した基盤研究(C)一般の研究内容と関連している。栽培イネ日本晴(Oryza sativa)と野生イネ(O. rufipogon)の戻し交雑自殖系統群(BRILs)を利用して、Naを筆頭に塩ストレス耐性に深く関与する4元素の若い葉身における蓄積を支配する遺伝子座を絞り込み、究極的には責任遺伝子を同定する事が目標である。 イネのBRILs系統を利用して、目的とする責任遺伝子の同定を促進するために、当該年度においては、およそ4カ月半にわたり、タスマニア大学(オーストラリア)のShabala教授の研究室で研究を行い、鍵となる電気生理解析技術であるMIFE(microelectrode ion flux measurements)法を学んだ。MIFE法は、ガラス微小電極を利用して、細胞や組織の表層の標的イオンの流出入を経時的かつ定量的に解析する実験法である。MIFE法の原理から操作の全てを、Shabala教授本人や研究室の専門家から教えを受け、技術習得に励んだ。今年度は、予定通り、BRILsの親系統である栽培イネや野生イネの幼植物の根を利用した実験に終始した。Na, K, Ca, H, Clのイオン種を標的に定め、塩ストレス前後の各イオンの取り込みと排出活性をモニターした。後半には、栽培イネや野生イネに加えて、将来を見据え、耐塩性イネの解析も並行して実施した。データの解析方法や解釈の仕方も伝授され、まだ技術習得という意味では多々不完全な面があるものの、塩ストレスに晒されたイネの根における各イオン種の流出入のデータを取得する事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに選抜した、若い葉身のNa蓄積が、塩ストレス下で有意に増加するBRIL系統を中心に、それらの種子をShabala博士の研究室に送付し、次の渡航の機会に、MIFE法により詳しく解析する。最も重要なターゲットはNaであるが、本プロジェクトにおいては、塩ストレス下でその蓄積が耐性に正の影響を与えると考えられているK, Caにも着目している。MIFE法により、Na, K, Caに特に焦点を当てながら選抜BRIL系統を解析し、一方で日本国内では、選抜BRIL系統と栽培イネ(日本晴)との戻し交雑後代集団を作製し、それらの元素分析や次世代シークエンサーを駆使した生物情報科学解析も進める。
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