研究実績の概要 |
本課題は、栽培イネ日本晴(Oryza sativa)と野生イネ(O. rufipogon W630)由来の戻し交雑自殖系統群(BRILs)を利用し、塩ストレス下のイネの若い葉身へのNa, K, Ca, Mgの蓄積を支配する量的形質遺伝子座(QTL)の責任遺伝子同定の迅速化を目指した研究である。最も重要な、葉身のNa蓄積に関与するQTLの一つ(Na-QTL1)の責任遺伝子を追究すべく、複数のNa-QTL1保持BRIL系統と日本晴の戻し交雑系統(BC1F2)を準備することができた。しかしながら、新型コロナウイルスの世界的蔓延による長期渡航予定(約5カ月)が2020年に阻まれて以来、最終年度に至るまで、MIFE法と呼ばれる電気生理実験を並行させながら先述の材料をもとに責任遺伝子を追究するプロセスを前進させることができなかった。今後の継続的共同研究体制を話合う意味合いでの短期渡航を実施する予定であったが、直前に新型コロナの濃厚接触者になり、その計画自体もとん挫せざるを得なかった。ただし、日本側で進めた、各QTLの責任遺伝子追及のための材料作りは順調であり、本プロジェクトは終了を迎えるが、MIFEを用いた、イオン輸送に関与する責任遺伝子の単離を迅速・簡便化する試みの土台は作り上げることができた。本プロジェクトとしては、主に前半の成果のみになるが、そこから得られたものを継続プロジェクトとして繋いで、目標実現を目指す。 最も大事な研究目標は、その途上でプロジェクト期間の終わりを迎えることになってしまったが、1年目の渡航の際に輸出できたイネ種子を使って、イネの塩ストレス関係のプロジェクトに重要な成果を得ることができた。イネの根表層からNa吸収を媒介する候補の遺伝子2つが、それぞれ破壊されたイネ変異株で、双方ともにNa吸収活性が大きく減少することを突き止めた。今後、これを契機に発展させたい。
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