研究実績の概要 |
大部分の生物に高度に保存されるピリドキサールリン酸(PLP)結合タンパク質であるYggS/PROSCタンパク質の欠損・変異は、アミノ酸やビタミンB6代謝を中心とした代謝系に多岐にわたる影響を及ぼす。本研究では、当該タンパク質ファミリーの欠損・変異が引き起こす多岐にわたるフェノタイプの分子メカニズムを、特に、大腸菌をモデル生物として用いて詳細に検証してきた。現在までに、当該タンパク質の欠損株(YggS欠損株)が示す多くのフェノタイプが、いずれも菌体内におけるピリドキシンリン酸(PNP)の異常蓄積に起因することや(Ito T et al. Appl Environ Microbiol. 2019)、PNPの分子ターゲットとしてグリシン開裂系を同定してきた(Ito T et al. Mol Microbiol. 2020)。また、これら研究過程で、大腸菌におけるピリドキサールレダクターゼ(PLR)を同定してきた(Ito T, Downs DM. J Bacteriol. 2020)。本年度は、当該タンパク質欠損が示すPNP蓄積の生物間保存性、分子メカニズムに焦点を当てた。その結果、当該タンパク質の欠損が、サルモネラ菌、酵母といった、大腸菌と異なるビタミンB6合成・代謝経路を有する生物においてもPNP蓄積を誘導すること。サルモネラ菌や、大腸菌においては、本タンパク質の欠損株がPLPの排出能を獲得すること。PNPの蓄積が、当該タンパク質欠損の間接的な影響であり、PLP-PMP間の変換能の攪乱に起因する可能性などが示された(Vu, Ito, Downs, J Bcteriol. 2020)。大腸菌由来PLRの同定は、「哺乳類においてもビタミンB6代謝にPLRが関与する可能性」を提起した。哺乳類の細胞破砕液からPLR活性を検出し、さらに、ヒトより、推定PLR候補を見出した。
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