研究実績の概要 |
一般的に、全タンパク質の約1/3がその活性に金属補因子を必要とすると考えられており、タンパク質への金属補因子の適切な導入はタンパク質の構造形成と機能発現に極めて重要な意味を持つ。本研究では、鉄貯蔵タンパク質フェリチンへの鉄の集積機構と、銅含有酵素タンパク質であるフェノールオキシダーゼ及びヘモシアニンの構造形成過程の解明を目的とする。 ヒトにおける鉄貯蔵タンパク質フェリチンの鉄集積について、PCBP1(Poly-c-binding protein 1)が主要な役割を果たすことが、共同研究・渡航先のPhilpott博士のグループにより明らかにされてきた。報告者はPhilpott博士の研究室においてフェリチン-PCBP1間の相互作用について検討を行った。出芽酵母、ヒト培養細胞を用いて両タンパク質の共発現を行い、共免疫沈降法により両社の相互作用を解析した結果、PCBP1はヒトのフェリチンのうち高い鉄貯蔵活性を有するH鎖により高い親和性を有することが明らかになった。また、PCBP1は3つの相同なKHドメイン(KH-1, KH-2, KH-3)から成るが、そのうちKH3ドメインがフェリチンとの相互作用に重要な寄与をしていることが示された。 帰国後、両者の相互作用について定量的な情報を得るため、PCBP1配列中に存在する内性のトリプトファン残基の蛍光を利用したin vitroでのアッセイ系を確立した。このアッセイ系を用いて、各条件における解離定数を算出し、相互作用時のPCBP1のH鎖選択性とKH3ドメインの主たる寄与を確認した。これらの結果を踏まえ、フェリチンH鎖においてPCBP1との相互作用に主要な役割を持つアミノ酸残基の変異体を作製し、個々の変異体とPCBP1との相互作用を定量的に解析した。
|