研究課題
本研究は、基課題(基盤研究B(一般)「根分泌科学の新展開:農業生産への活用と生態学的機能」)において進めてきた根分泌物による農業生産への活用と生態学的機能のうち、特に生態学的機能とこれに関わる生理機能に注目した。特に西オーストラリアの極めて貧栄養な土壌に多く分布するヤマモガシ科植物とカヤツリグサ科植物を、わが国に分布する同じ科の植物と比較解析を行い、これらの植物の低リン耐性への寄与と土壌環境へ及ぼす影響を調査することが主要な課題である。本研究課題においては、西オーストラリアにおける現地調査と日本における栽培調査、現地調査を組み合わせ、植物の栄養生態調査および生理機能の調査を行うとともに、土壌微生物学的調査を行うことで、クラスター状の根がもたらす土壌生態系におけるインパクトを明らかにすることを目的とする。今年度は、昨年度までに分析した植物種に加え、西オーストラリアおよび日本に自生するヤマモガシ科植物、マメ科植物、貧栄養に多くみられる食虫植物などを採取し、これらの成熟葉を対象に多元素一斉分析を行った。その結果、イオンプロファイルは季節変動や年変動の影響をあまり受けない一方、地形の影響を受けることが示唆された。また、同じ科の植物であれば傾向は類似するが、Acacia属は種により異なる傾向が強いことが示された。調査したグループではヤマモガシ科のリン、窒素、カリウム濃度が低い特徴が示された一方、リンとカリウムは食虫植物で高い濃度を示した。さらに、いくつかの元素については高集積する科があることが新たに示された。西オーストラリア大学への渡航中にはフィールドで調査を行うとともに、積極的な情報交換を行うことで研究協力体制を確立した。今年度はホーヘンハイム大学に渡航できなかったが、根圏微生物の群集構造解析に着手し、次年度に分析を深めることとした。
2: おおむね順調に進展している
本研究の成果として、複数の関連論文の投稿や学会発表につながっており、順調に進展している。ただし、新型コロナウィルス感染症の影響により予定通りの渡航計画が消化できていない。今後web会議などにより共同研究、論文執筆を進めるとともに、終息後に集中的に渡航し、共同研究を進める考えである。
これまで渡航先への滞在は短期間ではあるが、極めて効率的に共同研究を進めていることから、今後もこれを継続する考えである。当面の間(新型コロナウィルス感染症が終息するまで)は国内においてこれまでに得た分析データの解析を進め、web会議を行って相互に意見交換を行うことで、共同研究論文の執筆を進める。以下の滞在計画は状況が許せば行う考えである。西オーストラリア大学には、令和2年度には2ヶ月程度滞在したく考えている。滞在期間中には、これまでに分析した植物種のイオノーム解析の結果を基にヤマモガシ科植物やクラスター根形成種の周辺植生への影響についての考察を行うための実験を実施する。また、日本では土耕および水耕栽培を進めており、水耕栽培植物の一部(Hakea laurina)についてはRNA seqを実施したが、その種数を増やし比較解析を行う。さらにクラスター状の根からの分泌物を回収し、そのメタボローム解析を進めている。ホーヘンハイム大学には、令和2年度には1-2ヶ月程度滞在したく考えている。滞在期間中にはすでに生データの一部を得ている根圏土壌の土壌微生物群集構造解析を進める。さらに、ザイモグラムの方法を具体的に適用した実験を土耕栽培で実施し、酵素活性と微生物群集構造の関係を明らかにする。日本で土耕栽培している植物を用いて同じ土壌環境下で生育した日本原産、オーストラリア原産のクラスター根を形成するヤマモガシ科植物の根圏土壌における微生物群集構造について、アンプリコンシーケンスあるいはバンドパターン解析を行う。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
日本土壌肥料学雑誌
巻: 90 ページ: 230~235
10.20710/dojo.90.3_230