イセエビ・セミエビ類は世界の熱帯・亜熱帯海域における水産有用甲殻類資源である。需要の急増に伴う過剰漁獲や沿岸域の開発に伴う生息場所の減少などが原因でイセエビ・セミエビ類の天然資源は減少しており、一部の地域では絶滅に近い状態に陥っている。一方、イセエビ・セミエビ類を産卵から成体まで人工環境下で安定的に生産する技術は整っていない。とくに浮遊幼生期の生態や発育を調節する仕組みについての知見が乏しく、着底種苗の生産がボトルネックとなっている。ウチワエビ類に関してはこれまで取り組んできた研究により、少数の種苗を確実に生産できる飼育技術を開発できたが、産業的な増養殖へと発展させるためにクリアしなければならないいくつかの課題も見つかった。 本研究では、大規模種苗生産の実現のためにセミエビ類の幼生の摂餌生態および発育メカニズムを解明することを目的としている。今年度も幼生の成長および生残の改善を目指した飼育試験を計画していたが、新型コロナウィルスの流行により台湾への渡航が制限され、渡航しての実験は叶わなかった。やむを得ず、予定していた実験の一部を国内で実施した。ウチワエビ類は通常、外洋の深場に生息し産卵するため、幼生は物理環境の安定した場所で孵化して生育すると予想される。しかし、魚介類の人工的な種苗生産は、しばしば沿岸の海水を取水する施設で実施され、とくに東南アジアなどの沿岸水の塩分は大きく低下する場合がある。そこで、ウチワエビ類の孵化幼生が正常に発育できる塩分条件を理解するために、様々な低塩分条件に孵化幼生を晒し、その後の成長と生残を調べた。その結果、孵化幼生は塩分26程度であれば、通常の海水(塩分34)と同等に発育できることが分かった。一方、それより低い塩分環境では脱皮の失敗や遅延が認められた。
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