NMDA 型グルタミン酸受容体NR3A(GluN3A) は、脳機能を担う神経回路の発達において重要な役割を持つが、その発現部位や分子機構には不明な点が多く、解明が期待されている。平成29年度から開始した基課題において、NR3A 受容体は他の受容体とは全く異なり、特定の入力経路・細胞の非シナプス性結合に選択的に集積することを見出した。具体的には小脳登上線維ー抑制性介在ニューロン間の非シナプス性結合と、大脳皮質や海馬のソマトスタチン陽性抑制性介在ニューロンに選択的に強く発現している。予備実験で得られた結果からは、NR3A受容体の選択的局在は、未知の構成分子・結合分子により制御され、正常な神経回路発達に寄与している可能性が強く示唆された。この選択的局在や集積を可能にする分子機構を明らかにすることは、生物学的重要性が高いが、NR3A 受容体のような膜蛋白質の複合体解析や細胞膜への局在分子機構の同定は専門性と難易度が高いため、申請者単独で効率的に成果をあげることはほぼ不可能である。そこで本研究では、これまでに数々の受容体複合体の構成分子を同定し、受容体局在や活性の調節機構を明らかにしてきた米国Yale 大学医学部・Susumu Tomita 教授との共同研究によりNR3A 受容体の選択的集積機構の解明を目指す。この研究の発展から、異なる神経細胞間の識別や神経回路形成の分子基盤の解明に寄与することも期待される。現在までに、海外共同研究先で当該研究を行う環境整備が完了した。さらにNR3A受容体と関連分子・受容体を共発現させた細胞を用いて生化学的手法による解析と電気生理学的解析に着手した。
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