不安障害や気分障害は脳内のセロトニンなどのモノアミン系神経伝達物質の低下が原因とする仮説が提唱されているが、第一選択薬である選択的セロトニン再取り込み阻害剤などの抗うつ薬に反応しない患者が一定数存在する。このため、これらの精神疾患の生後発達過程に応じたメカニズム解明が必要である。本研究の基課題では、思春期のストレスが神経精神基盤の成熟に与える影響について、分子・神経回路・行動メカニズムを見出すことを目的としており、情動機能調節に重要な脳部位である扁桃体および前帯状皮質における神経回路メカニズムを電気生理学的、神経化学的ならびに行動学的に検討している。
ヒトの思春期初期に相当する生後3-4週齢時(幼若期)に足蹠電撃による恐怖ストレスを受けたマウス(幼若期ストレスマウス)は成熟期において、高架式十字迷路やオープンフィールドなどの不安環境下における運動量が減少していた。また、他個体の恐怖反応に対する自身の情動反応の評価では負の共感性が亢進していた。さらに、恐怖を受けた他個体に対する社会的行動(におい嗅ぎ行動)が減少していた。この幼若期ストレスマウスの神経細胞(錐体細胞)の活動電位の発生頻度が扁桃体と前帯状皮質で亢進しており、扁桃体でのセロトニン受容体の感受性の低下を示すデータを得ている。
以上の国内研究の予備的データを基に、海外共同研究者となるるAndrew Holmes博士と2017年11月にワシントンDCにて開催された北米神経科学学会ならびに博士の主宰研究室において面会し、本研究について議論するとともに、共同研究に向けて互いの研究内容についての情報を交換した。。その後も研究の方法について綿密にやり取りし、次年度4月より申請者がNIHにて共同研究をスタートさせるべく3月末日までに渡航の準備を整えた。
|