研究課題
2019年7月1日からの渡航へ向けて,1年間の限定的な期間でのスムーズな研究推進を目的として事前準備を綿密に行った。具体的には,渡航先で行う実験計画書および動物使用実験倫理書類等の米国での法律に沿った研究計画書の立案を行った。本申請研究においては,遺伝子組換え実験,動物実験が含まれている。また,本邦において,渡航先で使用する予定の遺伝子プラスミド作成やターゲットとするDel-1遺伝子のin silico解析を行った。さらに Del-1の特異的なドメイン欠損タンパク質の作成をおこなった。申請者が着目しているDel-1に関する研究は,基課題若手研究(A)(16H06272)において精力的に推進されており,当該科学研究費の年度報告書にあるように一定の成果を得ることができた。すなわち,Del-1の抗炎症作用の骨免疫調節,肺での免疫調節作用,さらに歯周病の進行抑制への展開への可能性が高まった。 Del-1研究は我々の研究が世界でリードしていることから,同結果を本国際共同研究にてさらに昇華させるために,米国ペンシルベニア大学で附置されている大規模サル施設を用いる。施設において,よりヒトに近いサルをターゲットとした候補薬剤を用いたDel-1の自律的誘導法による炎症性疾患治療の可能性を検索することになっている。大型動物を使用した研究には事前準備が重要であり,課題の設定と解決方法の立案をおこなった。渡航先とは常に連絡を取っており,2019年7月1日からの実験開始がスムーズに開始できる。
2: おおむね順調に進展している
米国で行う研究には,基課題の知見を継承発展させる必要があるが,基課題(16H06272)は報告書にあるように順調に成果を出すことができた。具体的には,内因性の抗炎症物質であるDel-1が好中球の遊走阻止による炎症抑制効果を持つだけでなく,破骨細胞に直接作用することで骨吸収を抑制することを発見した。これは,βカテニンを介さない非古典的経路による骨代謝においてDel-1が重要な働きを持つと考えている。また,Del-1の発現が加齢とともに減少していくことを明らかにした。重度の歯周炎は,高齢者に多い。そのため,加齢によりDel-1発現が低下し,多数の好中球浸潤により炎症が悪化することにより,重篤化する仮説を考えている。仮説を検証する方法論として,まずDel-1減少が認められる老齢モデル動物に口腔内細菌を感染させ,歯周病を引き起こす。その後,Del-1接種および自律的誘導による歯周組織の回復評価を行う。Del-1の自律的誘導法については,申請者が先行研究でアイディアを得ている。これまでの解析の途中経過で得た基礎的なデータは国際英文雑誌に投稿した。このことから順調に進展していると判断した。
今後は,渡航先にてDel-1によるRor2からの下流シグナルの同定と,骨吸収と炎症抑制効果をより強くもつDel-1ドメインの開発を目指す。すなわち,これまでの基課題における研究の遂行で,Del-1がWnt5aとの競合的な拮抗薬として作用することが明らかになった(未発表)。しかしながら,Del-1を構成するドメインごとの働きは不明である。特定のドメインのみでDel-1を構成すると,Del-1の機能が変化し,骨髄系間葉細胞への誘導機能を持つことも明らかになってきている(Mitroulis I, Maekawa T. et al., J. Clin. Invest. 2017)。そこで共同研究者であるJohn D Lambris博士と,安価で安定したDel-1タンパク質の同定と作成をおこなう。欠損ドメインは,Del-1を構成する3つのEGF様ドメインと2つのディスコイジン様ドメインの変異体を作成する。1年の渡航機関において可能な限りの変異体Del-1を作成し,また構造解析も同時におこなうことで,生体に安全なタンパク質の創出を目指す。渡航終了後は,構築した候補Del-1を日本に持ち帰り研究を継続する。続いて,体の内部から自律的にDel-1を誘導する方法をマウス,サルを用いて検討し,ヒトへの応用を図る。ペンシルベニア大学に附置されている大規模サル施設にて候補薬剤を用いたDel-1の自律的誘導法による炎症性疾患治療の可能性を検索する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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