研究課題/領域番号 |
17KK0166
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
林 周作 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (10548217)
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研究期間 (年度) |
2018 – 2020
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キーワード | 腸管粘膜修復 / 炎症性腸疾患 / 腸管上皮細胞 / CD11c陽性細胞 / GPCR / 大腸オルガノイド |
研究実績の概要 |
2019年1月に海外渡航し、2019年度はミシガン大学のAsma Nusrat教授のラボで研究を実施した。Nusratラボでは、腸管上皮や腸管粘膜に存在する免疫細胞上に発現するGタンパク質共役受容体(GPCR)が、炎症によって傷害された腸管粘膜の修復を制御するメカニズムを明らかにするプロジェクトを進めており、腸管上皮に発現するGPCRではBLT1、免疫細胞に発現するGPCRではFPRに着目して研究を行った。 BLT1は、炎症収束因子として知られているResolvin E1(RvE1)の腸管上皮における標的受容体であると仮説を立てて、研究を進めている。これまでに、ヒトおよびマウス腸管上皮細胞がBLT1を発現していることをin situハイブリダイゼーションの一種であるRNAscopeを用いて観察している。また、大腸内視鏡生検によって傷害された腸管粘膜の修復を評価するマウスモデルを用い、BLT1の発現が傷害された粘膜において傷害後頃日的に上昇すること、特に傷害部に近接したクリプトにおいて高発現することを見出した。さらに、大腸オルガノイドを用いた解析から、幹細胞を多く含む3次元培養の大腸オルガノイドは、分化した2次元培養の大腸オルガノイドに比べてBLT1を高発現していることが分かった。これらの知見は、粘膜傷害後、クリプトに存在する幹細胞が腸管上皮細胞に分化するイベントにBLT1が積極的に関与することを示唆している。また、BLT1アンタゴニストの前処置は、in vitro損傷修復モデルにおけるRvE1の修復促進作用を阻害した。 腸管マクロファージのマーカーであるCD11cを発現する細胞にてFPRを欠損する遺伝子改変マウスを作製し、腸管粘膜修復におけるFPRの役割の解明についても研究を進めている。 今後の研究者人生の糧となる研究人脈を広げ、考え方や技術を幅広く学ぶことを心掛け行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
腸管粘膜に存在する免疫細胞(主に腸管マクロファージ)と腸管上皮細胞がどのようにコミュニケーションし、炎症により傷害を受けた腸管粘膜を修復するのかを解明するため、GPCRであるBLT1(腸管上皮細胞)とFPR(免疫細胞)に着目し研究を進めている。BLT1は、RvE1が傷害された腸管上皮の修復を促進することから、RvE1が腸管上皮細胞において作用する受容体として解析を行っている。しかし研究開始時は、RvE1の受容体としてCMKLR1が知られており、CMKLR1が腸管上皮細胞に発現することが報告されていたことから、CMKLR1の役割に注目していた。研究を進める過程で、実際には腸管上皮細胞がCMKLR1を発現していないことが明らかになり、機能的にもRvE1の粘膜修復の促進作用に対するCMKLR1の関与が認められなかったことから、CMKLR1に代わる受容体としてBLT1に着目し、ストーリーを大きく変更した。よって、BLT1の腸管粘膜修復での役割に関するデータを取得している途中である。 また、粘膜修復における免疫細胞上のFPRの役割に関する研究では、遺伝子改変マウスの樹立に時間がかかり、CD11c陽性細胞においてFPRを欠損したマウスを使用できる段階になった。本マウスでは、大腸内視鏡生検によって傷害された腸管粘膜の修復が遅延しており、腸管マクロファージなどのCD11c陽性細胞に発現するFPRが腸管粘膜の損傷修復に関与していることが示唆された。幸い重要な表現型を見いだすことが出来たが、そのメカニズムを証明するデータの取得が必要である。 以上のことから、当初の予定に比べて遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定よりも進捗が遅れているため、2020年度も国際共同研究先にて以下の研究を行う予定である。 腸管上皮細胞に発現するBLT1の粘膜修復における役割に関する研究については、BLT1遺伝子欠損マウスを用いて、マウス病態モデルにおける粘膜修復でのBLT1の重要性を証明する。また、BLT1遺伝子欠損マウスから大腸オルガノイドを作製し、傷害された腸管上皮の修復におけるBLT1の役割について解析する。BLT1が腸管上皮細胞に発現していること、傷害を受けた腸管粘膜の修復に関与していることはこれまでに報告がなく、インパクトのある研究成果を得られると考えている。 また、免疫細胞に発現するFPRの粘膜修復における役割に関する研究については、腸管上皮細胞とFPR発現CD11c陽性細胞とのクロストークについて着目し研究を進める。国際共同研究先にて出来る限り結果を得て、帰国後に不足しているデータを取得する予定である。
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